誰もが理想とする1台
この車に乗る誰もが、このALFA ROMEO 4Cに乗る前に、「こんな走りだったいいな」と思い描く理想の走りや、「このスペックから見て、このくらいの車かな?」という想像の域があると思う。
最初に言い切っておこう。
ALFA ROMEO 4Cという車は、その思い描く走りや、この車のスペックの情報から想像する域は
簡単に、しかも遥か大きく超えてくる。
そしてその良い裏切りに対して誰もが感嘆することになる。
旧くからの「ロメオ乗り」の皆さんは待ち望んでいた1台がやっと出てくれたことにきっと満足されるはず。
乾燥重量895kgという軽いボディに、ミッドシップエンジンによってもたらされる前後の重量配分40:60と理想に近いバランス。独自にチューニングされた1750ccの240HPのエンジン。そして外観デザインと、どれをとっても純血のアルファ ロメオではないか。
近年のアルファ ロメオしか知らないオーナーは自分の乗っているアルファ ロメオというブランドがどんだけぶっ飛んでいるブランドかを知ることになるだろう。
そして、FIAT500のカワイイデザインから入った最近のイタリア車女性オーナーたちは、同じお店で売っているのがとびきりセクシーなスポーツカーだと言うことを知り、イタリアンプロダクトに魅了されることだろう。
エンジン始動~シフトアップの快感
カーボン剥き出しのバスタブのような低いコックピットに着座すると全ての計器がドライバーに向いており、これから運転をするんだぞ、という昂揚感に包まれる。
これまでのアルファロメオやイタリア車にはどこか物足りない部分があった。物足りなさがアルファロメオ、イタリア車の一つの特徴になっていたとも言える。
FFのアルファロメオの鼻先の重さに、重い車体重量に、他社製のエンジンを使った心臓部に、etc...
フィアットのアバルト500にしてもコンポーネンツがFIAT500なだけに、どこまでチューンしてあってもどこかドーピングしている感がぬぐえなかった。
「ああ、ここがこうだったらいいのに・・・」そう思ったオーナーは多いと思う。
まあ、そんなところがまたオーナーとしては愛着を持てるポイントだったりするではあるが。
この4Cはどうか。一つ、エンジンは、これまでジュリエッタの一部モデルでも使われていた1750ccのエンジンをチューンしたものであるということで、乗る前は正直それ程期待するものではなかった。
それが大いに間違った認識であったことをエンジンをかけた瞬間から気づかされる。咆哮とも言える爆発的なエンジンスタート音はとても4気筒のそれとは思えず、さらには視認性のすこぶる良い液晶パネルにはアルファロメオのエンブレムが浮き上がる。こういった心躍らせる演出も実に上手だ。
そして走り始めるとすぐに強靭なボディ剛性と、軽さが体感できる。
D/N/A(「ダイナミック」「ノーマル」「オールウェザー」)に加え、新たに「レース」モードがあるが、公道であるこの日はDレンジに。それでも必要十分パフォーマンスを示してくれた。
まずシフトチェンジを「AUTO」モードにして右足を踏み込むと、強烈な加速と、乾式デュアルクラッチを備えた6速オートマチックトランスミッション(AlfaTCT)が瞬間的なシフトチェンジを実現する。
「バシュゥー!バシュゥー!バシュゥー!」と電光石火の速さと何とも言えないレーシーな音を奏でつつシフトアップをしていくのは何という快楽か!マニュアルトランスミッション以外でシフトアップが快感に感じたのはガヤルド、458スパイダーなどの所謂スーパーカーしかない。その時、ALFA ROMEO 4Cは紛れもないスーパーカーだと悟った。
その後マニュアルモードにして操ってみたが、下手に自分でシフトチェンジするより、AUTOモードで「バシュー」の快感に酔いしれた方が楽しいと思ってしまった。
そして1750ccエンジン、TCTともに既存のコンポーネンツを使いつつも、全てがこの4Cのために設計されたものであることを改めて理解した。
この4Cに限ってはまったく物足りなさを感じることは無いと言える。寧ろ、パーフェクト。満足度は果てしなく高い。
他に似ないスタイリング
アルファ ロメオの自社デザイン、チェントロスティーレによって生み出された流麗で、かつ何物にも似ないデザインはいかにもアルファロメオの伝統に則っている。
この「何物にも似ない」というのがアルファ ロメオの凄い所だと思う。アルファ ロメオのデザインはいつも少し時代の先を行っていて、すぐにはその価値を理解されないことが多い。
この4Cも全体的には非常にまとまりのあるデザインではあるが、例えばそのヘッドライトなどは、発表された時には爬虫類的で賛否があったが、現物を見ると、このくらいクセがあった方がいいと思えるからやっぱりアルファロメオには不思議なマジックが存在する。このヘッドライトを見ただけで、この車はタダ物ではないことを物語れるではないか。そしてヘッドライトをオンして複数の光線が飛び出るサマは、何とも言えず、括弧いい。
これは量産車メーカーが作る車ではない。いや、作れる車ではない。実際、マセラティのモデナ工場で日産2000台ということで、一応量産の域ではあるのだろが、選ばれし熟練の職人が作っているという。それはもう量産とは呼べまい。
こんな1台をアルファ ロメオが作ったら、兄弟のフェラーリやマセラティをも喰ってしまうのではないかと心配したくなる。しかしその成り立ちはフェラーリやマセラティの延長線上にあることは間違いない。いわばこれはイタリアという国がその歴史の中から生み出したスーパーカーなのである。この車は、アルファ ロメオにしか、いやイタリアという国にしか絶対に作ることが出来ないシロモノなのである。
アルファ ロメオよ、いや、フィアットグループよ、よくぞ作ってくれたと心から拍手を贈りたい。
頑張ったら僕らにも手の届きそうなギリギリの価格ライン。でも新車でなくてもいい。将来中古でもいいから、この車は買っておいた方がいい。ガソリンという内燃機関を使った最後のスポーツカーの傑作と言っても過言ではない。このイタリアが生んだ宝石を、僕らイタリア車を愛して止まない人間は、買う義務があると思うのだ。
この車は、奇跡としか言いようのない1台だ。