ランボルギーニを案内する人には名物おねーさんみたいな人が居ると知ったのは、確かこの見学を予約しようと思ってネットサーフィンをしている時だった。
でもそれはずいぶん前の情報だったものだから、本当にそんな人がいるかどうかあやしいもんだと思いながら、予約をしたことを覚えている。
団体客のアメリカ人高校生達が先に工場見学に通され、しばらく経ったあと、受付の人が僕の名前を呼んだ。
周りを見渡すと、どうやら僕の他にも見学者がいるようで、先に入った団体客とは別に案内人が付いて、工場見学をするらしい。
僕らのグループは僕の他、1人旅行の女性(たぶんスペイン人)、同じく1人旅行のドイツ人男性の3人だった。
そして工場の扉が開き、中から案内の女性が出てきた。
その人を見た瞬間、「あ。ひょっとして、この人が名物おねーさん?」と直感的に、また、漂う皇帝色の覇気 からそう思った。
しかし年の頃はおねーさんと呼ぶには相当な年月が経っているような気がしたし、ぱっつんぱっつんのボディにランボルギーニのロゴが横に伸びたTシャツ姿が僕の中で鳥山明が描くおばさんのイメージ(腰に手をあてて、小太りで、尖った感じの、、、きっと僕だけのイメージなので分からないと思いますが・笑)とかぶって、ちょっと違うかなとも思った。
しかし、僕のその直感が確信に変わる時が後からくるのだけれども。
ともあれ、見学者3人と、その案内人の女性(以後ランボねーさん)の4人でランボルギーニ工場見学が始まった。
撮影は禁止らしく、ランボねーさんに
「おみゃーさんカメラ持ってたらあっかんがや、あっちにロッカーあるで置いてこやあ」と注意されたので、ロッカーにカメラを置いて、工場の中に入る。
入った途端、そこにはいきなりずらーーっと20台くらいの納車前と思われる完成車両が並んでおり、
それはもう様々なカラーや、オプションが満載のクルマ達で、これらが明らかにどこぞの国の金持ち達が自分仕様に仕立ててフルオーダーしたのであろうと思われるものばかりだった。
それらを見たり、触りながら(僕は触らなかったけれど。ドイツ人のおっさんがべたべた触るから見ているこっちがヒヤヒヤした。)英語でクルマの説明をまくしたてるように弾丸トークで説明をしていくランボねーさん。
この英語がまた早口なのかイタリア人英語で訛ってるのか、何を言っているのかよくわからなかった。どうやら一緒に見学しているスペイン人女性も英語がわからないらしく、もっぱらドイツ人のおじさんとやんややんやと話しながら、進んで行く。
でも、ランボねーさんがすごく誇らしくランボルギーニのことについて話していることは分かったし、サンタアガタにあることに強い拘りがあるらしいことも何となく分かった。あと強烈にフェラーリを意識していることも。
そして少し打ち解けたな、と思った時にその事件は起こった。
ドイツ人おじさんが、「納車前のランボ達に、赤色がないけど、どうしてなんだい?」
とヘラヘラと尋ねた途端、ランボねーさんの顔色がぐわっっと変わって、彼女はそのドイツ人にこう言い放った。
「このどたわけ!あっきゃー(赤い)車が欲しきゃモッッデナへ行っきゃあ!ここはよぉ、ランボルギーニだわ!サンタアガタなんだわ!あっきゃー車なんかここにはひとっつもにゃーわ!とっろいこと言っとったらかーん!」
ドカーンという効果音が僕には聞こえた。
かっこ良すぎるーーー!!
なんという自負心、なんというランボルギーニ愛、なんというモデナへのライバル心なんだろう!
わかった。この人がランボルギーニの名物おねーさんだ!
他にも案内人が居るのに、この人に当たって僕は本当にラッキーだった。
でもそのあと、怒らせんようにしよーと思ったのは言うまでもない。
しかしこのドイツ野郎もランボの見学にポルシェのTシャツ来てくるKYなヤツだったし、納車前のクルマにベタベタと触っていたところもきっとランボねーさんの逆鱗に触れたのであろうと思われる(笑)
つづく。