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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
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大矢アキオ Akio Lorenzo OYA 
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター

ここに1枚の写真がある

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ボクが東京に住んでいた1990年から91年頃、玉川高島屋SCで撮影したものだ。
その日ボクは、実家のメルセデス・ベンツ190E(W201。右端)で空きスペースを見つけて駐車した。すると隣にはEクラス(W124)が、そのまた隣にはSクラス(W126)が佇んでいるではないか。それもすべてがグレーのメタリックである。
かくして、偶然にもメルセデスの広報写真のような風景ができあがってしまった。 

「広報写真風」といえば、先日イタリアに住むボクの周辺で、もっとインパクトある風景に遭遇した。ご覧の「フィアット・プント4台並び」である。

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フィアット関連施設の駐車場——日本自動車工場同様、FCA関係のブランドでないと駐車できないフィアット工場の駐車場や、ファンの集いで撮る、といった姑息な手段は用いていない。市道に面した、ごく普通の無料駐車スペースだ。
左奥から2009年から2012年の「EVO」というサブネームがつけられたモデル、次が現行に近いもの、再びEVO、そしていちばん右が「グランデプント」といわれた初期型、それも天然ガス仕様「ナチュラルパワー」である。

気がつけば現行プントは、2005年の誕生から早くも13年が経過している。前述のスナップに写っていた、どのメルセデスのライフスパンも超えてしまった。昨2017年にイタリア国内登録されたプントは53,960台で、同じフィアットのパンダ、ランチア・イプシロンに次いで堂々3位にランクインした。最新統計である2018年2月には、パンダに次ぐ2位(5011台)に浮上している(以下いずれも統計はUNRAE調べ)。

なぜデビュー後13年も経過したモデルが売れているのか?当初ボクは、カンパニーカー用途の長期リース市場による支持かと考えた。イタリアでは経済の先行きが不透明な中、企業は社員に貸与するクルマの見直し、はっきりいえばグレードダウンを進めている。
だが、2018年にプントは、長期リース用車両販売のトップ10圏内に入っていない。ということは、一般ユーザーの間で売れていることになる。
そこで第一線で販売するフィアット販売店のセールスマンに話を聞くことにした。ショールームで彼に質問すると、開口一番「本当に売れているよ」と証言してくれた。理由は 「パンダよりボディサイズが大きい割に、安いから」からだという。

パンダのベースモデルである1.2リッター69馬力の正価は税込み11,340ユーロ(約147万円)だ。
対するプントは? 2018年3月に実施されたプロモーション価格では、同じ1.2リッター69馬力だと、5ドア仕様でも8000ユーロ(約104万円。付加価値税込み)で買える。
リッターあたり燃費は、パンダがリッターあたり19.6kmなのに対してプントは18.8kmとやや劣るものの、ボディサイズからくるゆとりや車格感と相殺できる。加えて、大きなディーラーでは在庫車も多く、色やグレードをこだわらなければ「即納」の可能性が高い。
そこにイタリア人一般ドライバーにみられる「みんな乗ってるから」という安心感もプラスに働く。

そのセールスマンは「プントも、もうそろそろモデルチェンジしてくれれば、さらに売れるかもしれないのに」とも言う。しかしメーカーとしてみれば、生産設備の償却が進んでいる商品が、今もってよく売れるのだから、造り続けない手はないのだろう。

ユーザーにとって、メリットは安いだけではない。
ワイパーしかり、シートカバーしかり、さらにホイールキャップしかり。カー用品店はもちろんホームセンターや地域によってはスーパーでも、メーカー純正より手頃な社外品が数々見つかる。それも、多くの場合◯年型といった年式の確認が必要なく、初期型のネーミングであった「グランデプント用」という文字だけ確認すればよい。

 

 

ところでイタリア人と接していると、彼らのなかでフィアット車といえば、先代500、126、初代パンダなど、エントリー車種ばかり記憶が鮮明であることがわかる。いっぽう上位車種は、覚えている人がいきなり減る。
プントにはこのまま長生きしてもらい、そうしたジンクスをぜひ打ち破ってほしい。そう密かに願っているボクである。

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ボクが住むシエナ県の、とある旧市街で。昼下がりに佇んでいたフィアット・プントEVO。


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1990-91年頃。玉川高島屋SCの駐車場にて。


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プントの4台並び。もはやイタリアの“国民車”のひとつといってよい。


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リアには牽引用フックが。この車の場合だと、引っ張るのはキャンパーやボートというより、自家製ワインやオリーブオイルを積載したトレーラーの確率が高い。


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“グランデプント”と呼ばれた初期型。


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あるディーラーにて。ストック豊富で早い納車も、プントの美点。

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昼休みが終わり、ふたたび動き出した午後の街で。プントEVO(右)。
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コラムニスト/イタリア文化コメンテーター

アメリカ市場における最新のフィアット事情

おさらいすると、フィアットは1899年にイタリア・トリノで創業した自動車ブランドである。
だが今日、その実体は国際企業だ。2009年、フィアットは連邦破産法第11条の適用を受けて倒産した米クライスラーを統合。当初トリノと米ミシガン州オーバーンヒルズの2本社制をとっていた。
やがて2014年に『フィアット・クライスラー・オートモビルズ(以下FCA)』を発足させると、登記上の本社をオランダ、税務上の本社をイギリスに置いた。上場は従来のミラノに加え、ニューヨーク証券取引所でも果たした。
トリノのリンゴット地区にある歴史的本社はFCAの移転後、フィアット創業家であるアニエッリ家の投資会社が使用していた。だがその投資会社もFCAの後を追うようにオランダに移転。現在は同家の文化財団が使っている。

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ロサンゼルス(LA)オートショー2017で。フィアット500L(左)と、EV仕様のフィアット500e(右)。


こうして多国籍化するFCAの姿を複雑な思いで受け止める純粋イタリア車ファンは多いはずだ。しかしそれによる新たな展開も少なくない。その代表例が米国市場である。

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フィアット・ブースのモデル。


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アルファ・ロメオ・ブースのモデル。



フィアット・ブランドは2010年ロサンゼルス・モーターショーで、メキシコ工場製の「500」とともに北米市場復活を宣言した。これにより、品質問題などを背景にした1983年の撤収以来27年ぶりの再上陸となった。
参考までに2017年1-11月の米国におけるフィアット・ブランド販売台数は24,754台であった。販売モデルは多い順に「500」「500X」「500L」そして「124スパイダー」である。

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フィアット124スパイダー・アバルト。価格は24,995ドル(約282万円)から。米国でアバルトは、フィアット・ブランドのスポーツバージョンという形がとられている。


同じFCAのアルファ・ロメオも2014年、「4C」をもって約20年ぶりに米国に復帰した。昨2017年には新型車「ジュリア」「ステルヴィオ」を投入して、本格的な販売攻勢にうって出た。そのため11月には、前年同月の62倍(!)にあたる1440台の販売を記録。1-11月も9997台で、前年同期比20倍となった。

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フィアット500eのダッシュボード。ボタン式セレクターに注目。


ディーラー網構築などに時間を要したと思われるが、「アメリカでもウケるだろうに」と以前から考えていた筆者としては、思わず「やればできるじゃん」と叫びたくなる。
2017年11月末モータショー取材に赴いたロサンゼルスでも、たびたび500や500Lを目撃した。
運転していたドライバーのルックスや年齢から察するに、日本製プレミアムカーやハイブリッド車の飽和状態から脱したい個性派ユーザーたちに“刺さる”選択なのに違いない。

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LAのダウンタウンで。


思えば1970年代アメリカでは、「輸送中、海水を被ったX1/9が流通している」という噂が流れり、自動車修理工を連想させる名前「トニー」に絡めて「FIATって何の意味か知ってるかい? Fix it again, Tony(トニー、もう一度修理しろ)の意味だよ」といわれた。
そのフィアットが今、摩天楼の間をクールに泳いでいる。イタリア車ファンとしては、目頭を熱くせずにいられないのである。




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LA郊外の住宅街で。保安基準に従い、前後フェンダーにオレンジ色のサイドマーカーが装備されている。
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コラムニスト/イタリア文化コメンテーター

シトロエン2CVのカタチをしたパッケージ入りチョコレート、同じシトロエンのDSを叙情的にとりこんだポスター、そしてルノー4がデフォルメされて描かれた絵葉書・・・フランス・パリの土産物店には、ベレー帽やエッフェル塔型ワインとともに、コテコテのフランス車をモティーフにしたアイテムが今も並ぶ。

 しかし店の外に目を向ければ、もはやそうした車たちは皆無といってよい。ちなみにタクシーも他のヨーロッパ都市同様、トヨタ・プリウスがスタンダードになりつつある。

 背景にあるのは、2016年7月に施行された市条例・クリテア(Crit-Air)である。それにより、1996年12月末以前に生産された欧州排ガス基準「ユーロ1」の車両は、朝の8時から夜の8時までパリ市内での走行が禁止された。

 近年パリでは大気汚染が警戒レベルを超える日が頻発し、大気汚染による健康被害が増加している。そうしたなかでの方策だ。
2040年までに内燃機関による自動車の販売・生産を禁止するとした2017年7月のフランス政府発表とともに、パリ協定を達成するための手段でもある。

 この「クリテア」、フランス古典車連盟によって「コレクション用」と認定された車両は規制対象外だ。いっぽうでそこから洩れる、「ちょっとだけ古い車」は、この1年で花の都から一気に姿を消した。1970-80年代の旧車専門誌「ヤングタイマー」は、条例の審議段階から「走る権利」を訴えて読者とともにデモまで行ったが、声は届かなかった。

 いっぽう、そうしたバゲットとワインの如く生活に根ざした古いクルマたちが元気なのは、全日走行が許可されている土曜・日曜そして祝日である。
ほとんどはかなり使い込まれた実用車だが、趣味性を感じる車もときおりやってくる。いずれもオーナーとともに空いた街路をのびのびと走っている。
ウィークデイの渋滞や信号待ちのなかで、そうした車が新型車よりも有害な排気ガスを撒くのを避けることができ、かつユーザーも古い車を使い続けられる。妥協策のひとつとして評価に値しよう。

普段珍しい新車が通るたび、しげしげと眺めてしまい不審の目でみられる筆者だが、ちょっと古いクルマのオーナーに関していえば、総じてそれがない。
皆さんもパリに赴いた際は、彼らに温かい眼差しを送ってみてほしい。あなたに自慢に満ちた笑みを返してくる確率が高いから。


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セーヌ左岸パリ14区で、シトロエン・サクソ。


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日本食レストラン街として有名なピラミデ駅付近で。シトロエンBX後期型。

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パリ15区で夕陽を浴びるプジョー309。


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サルトルも眠るモンパルナス墓地で。3代目ホンダ・プレリュード発見。



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こんな“古典”もときおり。初代フォード・マスタング。


(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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