文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 what3words/Akio Lorenzo OYA
■自動車ブランドも採用続々
3つの単語の組み合わせで位置情報を共有するアプリ/サービス「what3words(ワットスリーワーズ)」。日本では2022年にSUBARUが「クロストレック」の車載ナビに採用し、2023年に入ってからは「NAVITIME」が対応した。そのため、すでに耳にした、もしくは体験した読者諸氏もいることだろう。今回は、イタリア在住の筆者がどう使用しているかを記しながら、海外旅行や出張で活用するヒントを例示したい。
what3wordsついて簡単に説明すると、世界中を57兆個の3メートル四方で区切り、各マス目に固有の3つの単語の組み合わせを割り当てた位置情報アプリ/サービスである。アプリはAppStoreとGoogle Playから無料ダウンロードが可能だ。例として「ここち。ゆいいつ。くちぶえ」といった3語で、他の人と今いる場所や所在地を共有できる。提供しているのは、2013年ロンドンに設立された同名の企業だ。what3wordsは現在までに170の国・地域において、数千にのぼる企業、政府機関、NGOなどに採用されている。欧州の自動車ブランドでは、メルセデス・ベンツやランボルギーニによってすでに導入されている。

今回はwhat3wordsを、イタリアでどのように使えるかを記す。アンコーナ大聖堂は日本語表示で「ひさしく。きんにく。げんし」、英語では「rich.skipped.making」だ。(photo:what3words)
■メリット、すでに数々
イタリアを含むヨーロッパでは、街路に「◯◯通り」といった名前がつけられていて、片側に奇数、もう片側に偶数の地番が振られている。日本の◯丁目△番地✕号からすると、きわめて明快かつ探しやすい。広場(ピアッツァ)の場合も、ぐるっと一周にわたり地番が割り振られている。それなら、「イタリア旅行で場所を探すのは、楽勝じゃないか?」もしくは「従来の地図アプリで十分ではないか?」というと、そう簡単にはいかないケースが多々ある。以下に例を挙げて説明しよう。
・巨大な広場での待ち合わせ
広場のどのあたりで落ち合えば良いのか、たびたび苦労する。筆者が住むイタリア中部シエナにあるピアッツァ・デル・カンポ(カンポ広場)などは好例だ。面積は5885平方メートル。テニスコートにすると30面分だ。「ミッレミリア」のときは数百台のクルマが次々やってきて広場を埋め尽くす。イタリアを代表する伝統行事のひとつである競馬「パリオ」が開催されるときは、約3万人がすし詰め状態となる、と書けば、その広さがイメージしていただけるだろう。そうした状況で旅のお供とはぐれたとき、what3wordsは強い味方となる。

シエナのカンポ広場。競馬「パリオ」の日は、約3万人の観衆が埋め尽くす。what3wordsは「きしめん。ふとん。せんえん」。
・運転中
街路名は、基本的に建物の角に記されているが、せっかくの表示が軒先のテントなどで遮られていることが多々ある。古すぎて、煤けていたり薄くなっていることもある。とくに運転中に確認することは、かなり難しいし、危険である。従来のカーナビを使っているとわかるが、つい似たような街路に入ってしまったあとに、気がついて引き返すこともある。what3wordsの正確さは、そうした間違いをかなり解消できる。

街路名は店のテントや樹木に隠れている場合がままある。運転中に確認することは、かなり難しい。
・アグリトゥリズモを探すとき
what3words設立のきっかけのひとつは、創立者クリス・シェルドリックの、イタリアにおける苦い経験だったようだ。世界各国で音楽のライブイベント運営の業務をしていた彼は、ローマから南に1時間行ったところが会場であったにもかかわらず、ドライバーは北に1時間の場所に全機材を降ろしていたという。彼が間違いに陥った詳しい状況は知らないが、これはイタリアで起こりうる「あるある」だ。たとえば、山を表すモンテ◯◯、聖人の名前に由来するサン△△といった地名がやたら多い。地域では同じ聖人を祀っていたりするから、同名であっても、大きな町の名前であったり、単なる小さな集落の名前だったりする。カーナビの地名検索だけでは罠がある。
以後シェルドリック氏は、GPS座標を使用するようにしたものの、「数字16桁を正確に伝えるのは、容易ではなかった」と振り返っている。
ところでイタリアでは、自治体の観光振興政策も手伝って、アグリトゥリズモ(農園民宿)が人気である。そうした施設は景観規制にしたがい、日本のホテルのような大看板を出していない。また、他地域からやってきて開業する人もいるので、地元の人に聞いても知らない場合が多い。郊外ゆえ、「〇〇地区」という大まかな行政区画名しか存在しないこともままある。幸運にも、従来の地図アプリで表示されても、ヘクタール級のワイン畑をもつような農園では、入口がどこかを探すだけでひと苦労である。そうした場合でもwhat3wordsなら、素早く場所を特定できて助かる。

トスカーナの郊外で。

モンテプルチャーノ郊外「ポッジョ・ゴーロ」は、12ヘクタールのワイナリーを備えたアグリトゥリズモ。what3wordsは「みずくらげ。ひなたぼっこ。あかだし」。オーナーでドバイから移り住んだニアール&パーリ夫妻と。
・著名人の墓地
これが意外に迷う。著名人の墓の位置が簡単に探訪できる日本の多磨霊園などと異なり、イタリアやフランスなどではガイドブックにも「◯◯墓地にあり」としか記されていない場合が多い。そのうえ、現地に丁寧な案内があることは極めて少ない。好例は、筆者が住むトスカーナ州にある画家カラヴァッジョこと、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)の墓であろう。長年にわたる名所のような印象を抱く人が多いだろうが、実は遺骨の鑑定調査が行われたあと、終の地ポルト・エルコレに墓が建てられたのは、没後404年たった2014年だった。さらに、町議会会派の抗争に巻き込まれるかたちで、わずか5年後の2019年には現在の墓地内に移設された。しかも、墓の近くには案内板がない。その結果、イタリア美術を代表する人物のひとりにしては、あまりに目立たない場所にある。そうしたケースでもwhat3wordsは高い精度で所在地を特定できる。

トスカーナ州ポルト・エルコレにて。カラヴァッジョの命日が近い2023年7月のある日、勝手に公式参拝をする筆者。what3wordsは「すうかい。にくせい。めぼしい」。

こちらはポルト・エルコレから北東へ約62キロメートル。サトゥルニアの川湯。「ちやほや。つきでる。しんめ」
■カーライフを良くする予感
いっぽう近い将来、人々が外国旅行の際、クルマに関連することで、what3wordsが活躍するのは以下の2点だろう。
・Uberなどのライドシェアやタクシー配車アプリ
そうしたサービスは、乗車地をリクエストできる。しかし、従来の地図アプリは、正確さが限定されている。したがって、とくに大きな交差点では、どこで待っているのか、もしくは相手がどこに来るのかを連絡し合うのは難しい。実際筆者は、乗車後ドライバーから「そんなところで待たれても、危なくて停車できないよ」と文句を言われたことがあった。 what3wordsが普及し、またライドシェアやタクシー配車アプリとの連携が進み、ドライバーがwhat3wordsでお客を拾う正確な位置を教えてくれるようになれば、問題は解消できるだろう。
・故障・事故などのトラブル時
ディストリビューターの故障、クラッチの抜け、オルタネーターの故障…と、たびたびイタリアで立ち往生を経験してきた筆者は、そのつど保険会社や日本のJAFに相当するロードサービスに携帯電話からコールした。毎回、現在地をオペレーターに伝えるのに、それなりに苦労した。走り慣れた道で、何万回と通過したエリアであっても、ふと考えれば正確な地名を意識したことはない。従来の地図アプリを開いても、ちょっと郊外に行くと、かなり大雑把で、地名を把握するのが難しい。what3wordsにコールセンターが対応するようになれば、より簡単に伝えられるようになる。さらにいえば、言葉の壁も下げてくれることが期待できる。すでに英国のAA、オーストリアのOAMTCといった自動車連盟に加え、民間系のロードサービス数社がwhat3wordsを導入している。これについてwhat3wordsシニアPRマネジャーのフランキー・コーワン氏は「これらの企業やその顧客からのフィードバックは、信じられないほどポジティブなものでした。近い将来、ヨーロッパ中のより多くの故障サービスのプロバイダーが私たちの技術を採用することを期待しています」と文書でコメントを寄せた。

各国のロードサービスに普及すれば、故障・事故の際、現在位置の伝達に力強い味方となるだろう。

英国でのシーン。緊急時の現場到着時間短縮も、大いに期待できる。(photo:what3words)
■「カッコいい3単語」を求めてうろつく
ここまで便利であると、「建物内の何階にいるのかまで伝達できればいいのに」と、欲ばりたくなる。それに関してコーワン氏は「what3wordsは2Dですべての場所をカバーしていますが、インドアアドレスをサポートする技術(インドアポジショニング、インドアマッピング、インドアナビゲーション)はまだ十分に普及しておらず、現時点では高さを含む位置指定に大きなメリットはありません」と説明。そのうえで、「私たちwhat3wordsは、ビジターが求める最も有用な情報は、しばしば複雑な建物における正確な入口の位置であることに着目し、現在このニーズにうまく機能しています」と回答を寄せた。
ところで、日本語の3単語で表示されるものの、「外国人に場所を伝える場合、どうすればよいのだ?」 という疑問が沸く。そこで調べてみると、what3wordsアプリをダウンロードすると50以上の言語からメイン言語を選べることがわかった。アプリをダウンロードしている相手に3ワードを伝える場合には、そのまま目的地のアドレスをシェアすると、相手がwhat3wordsアプリで設定しているメイン言語に自動的に切り替えられる。3ワードを共有するにはアプリをダウンロードしていることが大前提となる。だが第二言語を設定できるので、異なる言葉を話す相手でも、相手の言語で3単語を伝えれば容易に位置情報が共有できる。
面白いのは、言語によって同じアドレスもまったく異なるワードが割り当てられている。3ワードは翻訳されたものではなく、ランダムな言葉なのだ。たとえば前述のシエナのカンポ広場は、日本語では「きしめん。ふとん。せんえん」である。英語では「stew.gets.multiple」だ。もしやイタリア語にした場合、「きしめん部分がパスタになるのか?」と勝手な空想を楽しんだ筆者だが、実際は「eroiche.trovate.portava」だった。とくに、ここではeroicaという著名なヒストリック自転車走行会の舞台になる。「偶然にもなかなか良い3wordsではないか」と、自分で決めたわけでもないのに妙に嬉しくなる。ちなみに、近年スタジアムなどで普及しているネーミングライツ(命名権)のように、将来は好きな3語を販売するビジネスを考えているか?とコーワン氏に質問したところ、「いいえ。ランダムに振られた3語はオフラインでも利用できるよう完全に固定されています」とのこと。すなわち、売買はありえないのである。
それはともかく、3メートル四方ということは、ほんの数歩移動しただけで、3つの単語が変わってしまう。これは筆者が住むシエナにある、見晴らしの良い公園にあるベンチである。場所は「じゅうみん。わいわい。かんしん」。なかなか良い組み合わせだ。だが、すぐ隣のベンチは「まよった。ばんにん。ひもち」である。待ち合わせのとき、可能な限り格好いい3単語を相手に送信すべく、うろうろ動きまわってしまう、我ながら自分の見栄っ張りぶりが、情けなくなった。

シエナ旧市街にある公園で。「じゅうみん。わいわい。かんしん」