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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
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文と写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

 

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シエナのルノー販売店「パンパローニ」に併設された民間車検場。

 

日本で自動車を所有するうえで、頭が痛い維持費のひとつといえば昔も今も車検である。今回は、イタリアの車検制度についてリポートしよう。

 

■格安ユーザー車検の落とし穴

イタリアで車検は一般的に「レヴィジオーネ」と呼ばれている。有効期間は新車が初回登録時から4年。以後は2年ごとである。定員10名以上の車両やタクシー/ハイヤーなど運送事業用車両は1年ごとである。ここまでは日本と細部は異なっても、さほど大きな違いは無い。

 

検査を実施しているのが陸運局と民間車検場双方なのも、日本と同様である。警察による路上検問などで車検切れが発覚した場合に反則金が課されたり、場合によっては差し押さえとなるのも、日本と同じだ。

 

いっぽうで、幸いなことにイタリアの車検料金は安い。かつ定額である。さらに、保険の仕組みが異なるため、日本の自賠責保険料に相当するものは含まれない。実際の料金はというと、自家用乗用車の場合、2024年は陸運局が45ユーロ(約7300円)、民間車検場が79ユーロ(約1万3千円。換算レートは2024年1月現在)だ。

 

円にして5700円も安いのなら陸運局によるユーザー車検一択ではないか、と思う読者もいるだろう。何を隠そう筆者も一度、それを試みたことがあった。だが施設は、火〜金曜のそれも午前中しか開いていない。空き照会はいまだメールのみで、予約可能日はかなり先なのが常だ。加えて筆者が住むシエナの場合、陸運局がひどい郊外に立地している。ゆえに待ち時間を潰す場所がない。ついでにいえば(当時乗っていた筆者のクルマがあまりに古かったのが原因なのだが)検査官のチェックが厳しい。実際、排ガス濃度がやや高かったうえ、シートベルトの規格が古いことを指摘されて、泣く泣く撤収した。

 



その後
、知り合いの元整備士のおじさんに車検を頼むようになった。朝、家までクルマを取りに来て来て、午後に届けてくれた。彼が陸運局に持っていったのか、それとも旧知の民間車検場に持って行ったのかは知らない。料金は法定費用+おじさんのお小遣いだったと思う。かなり便利だったのだが、おじさんが歳をとって完全に引退してしまったのを機に、頼めなくなってしまった。

 

■教育的指導も

過去数回は、市内にあるルノー系新車ディーラーの併設サービス工場に車検を依頼してきた。筆者のクルマはルノー系ではないのだが、快く引き受けてくれるうえ、比較的家の近くにあるから便利なのだ。

 

筆者の場合、1月が車検月だ。前月である12月になると、そのディーラーから車検が迫っていることを示す封筒が舞い込む。それと前後して、自動車関連税を管轄している州からも車検期限が迫っていることを知らせる通知が同じく郵便で届く。

 

今回ディーラーからの手紙を読むと、いつの間にかネット予約を導入していた。車検部門は朝が8時半から12時半まで。地域の習慣にしたがって2時間の昼休みをはさんで、午後は2時半から19時までである。およそ30分刻みで入庫時刻が選択できるようになっている。翌日も空いていたが、より筆者が都合の良い翌々日にした。実はネット予約後、何らかの障害で受付確認済メールが届かず、結局電話でリコンファームした。だがこのあたりはイタリアでは日常のことだから、さして動揺しなかった。

 

さて当日のこと。このサービス工場で、車検はマルコさんというスタッフが一人で担当している。A4版を4つに折り畳んだ車検証とキーを渡すと、筆者のクルマは彼の運転によって車検専用ブースへと移動した。設備は日本のものとほぼ同等といってよい。違いはといえば、マルコさんの通勤用である日本製二輪車が脇に収まっている日があるくらいだ。

 

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車検受付カウンター。

 

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車検場を表すREVISIONE VEICOLIのサインが掲げられている。車両はルノー・グループの「ダチア・サンデロ」。2023年のイタリア登録台数では「フィアット・パンダ」に次ぐ2位を記録した人気車である。

 

イタリアでは従来の検査項目に加え、2024年からエンジン・コントロールユニットに記録されている車台番号、走行距離、さらにエンジン警告灯によって表示された異常も、検査員がチェックすることが義務付けられた。それでも所要時間は30〜40分。ディーラー内の新車・中古車コーナー双方を散策しているうちに車検は終わってしまった。日本のスピード車検よりも短い。

 

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待ち時間に販売店部門を散策。ダチア「ダスター」は、ルノー日産B0プラットフォームを使用したSUVである。

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こちらは中古車センター。2021年ルノー「クリオ1.6 Eテック・ハイブリッド」は、走行4万2千キロメートルで1万8500ユーロ(約298万円)。

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EVが集められた一角。手前の2020年ルノー「ZOE」は、走行7万6千キロメートルで1万4950ユーロ(約241万円)。

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販売店オーナーがヒストリックカー・ラリーやヒルクライムに参加するため収集したコレクション。

 

終了すると、車検証に走行距離と検査合格のステッカーが貼られる。貼り付け欄は4つしかない。足りなくなると最も古いステッカーの上に重ね張りされるので、我がクルマは16年落ちなので、部分によって厚くなっている。

 

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検査終了。新しいステッカーが貼られ、過去のものには、無効が一目でわかるよう//が引かれている。

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加えて近年は、車検証明書なるものまで発行されるようになった。

 

車検はともかく、毎回緊張するのがマルコさんの“教育的指導”である。前々回はヘッドライトの光軸ずれ、前回はドライブシャフトのブーツ劣化と、それに伴うアウタージョイント側のグリース流出だった。走行17万キロだから仕方ないといえば仕方ない。後日お金が貯まったところで、彼の同僚に直してもらった。

 

果たして今回は? 歯科医院の検診結果を聞くような気持ちの筆者にマルコさんが指摘したのは、フロントタイヤのショルダー劣化だった。実は2年前にもマルコさんに前輪の摩耗を指摘され、後日交換していた。ということは換えてから僅か1年半だ。いくら前輪駆動とはいえ、走行距離は1万5千キロメートルちょっとである。近年日本でも販売されている中国ブランドを選んだのだが、やはり安物買いの銭失いだったのかもしれない。

 

心中を察するかのように、マルコさんがすかさずお勧めのタイヤをメモして渡してくれた。グッドイヤー140ユーロ(約2万3千円)、コンチネンタル系でチェコのバルム105ユーロ(約1万7千円)、そしてグッドイヤー系でスロベニアのサヴァ100ユーロ(約1万6千円)…と記されている。さらにキーを受け取ってクルマに乗り込み、助手席を見ると、「板金部門始めました」というチラシと、記念品のボールペンが置かれていた。いずれも従来イタリアの車検では見られなかった営業努力である。民間車検場の競合が激しくなっていることを窺わせる。

 

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助手席には、板金部門解説のお知らせと記念品のボールペンが。

 

ただし、そうした施策無しでも筆者には効き目あるセリングポイントがある。マルコさんの名字だ。「ロメオ」といい、綴りもアルファ・ロメオのRomeoと同じだ。“ルノーのロメオ”というミスマッチが逆に覚えやすく面白くて、ふたたび彼のサービス工場に車検を頼んでしまうのである。会社も本人も気にしていないだろうが。

 

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パンパローニ社車検担当のマルコ・ロメオさん。


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文と写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

 

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クプラのCセグメントSUV「フォーメンター」。VWのMQB Evoプラットフォームを使用。エンジンはガソリン/プラグイン・ハイブリッド、駆動方式はFWD/AWDが用意されている。以下はいずれも2023年に筆者撮影。

 

「イタリアではイタリア車が多数派なのは当然」と思う読者諸氏は多いのではなかろうか? ところが実際は逆である。外国ブランド車のほうが圧倒的に多いのだ。2023年1-11月の国内登録台数(以下も同期間のデータ: 出典UNRAE)で、イタリア系ブランド車(フィアット、ランチア、アルファ・ロメオ、マセラティ、フェラーリ)の市場占有率合計は16.18%に過ぎない。VW(フォルクスワーゲン)グループのランボルギーニを足しても16.2%だ。逆にいえば、およそ84%は他国系ブランドなのである。日本の自動車販売台数で輸入車比率(日系ブランド車除く)が一桁台であるのと逆の状態といえる。


■新興ブランドが健闘

イタリアにおける外国系の登録台数首位はVW、2位はトヨタである。ただし、それに続くブランドを見るほうが面白い。日本未導入のブランドが数々含まれているのだ。

まずはダチア。本欄で前回に紹介したとおり、ルノー・グループのサブ・ブランドである。近年イタリア市場で躍進目覚ましく、シェアは前年比30.56%増の5.6%・81,544台を記録。2023年通年ではフォード、プジョーそしてルノーを超え、外国ブランド3位入りは確実だ。従来からの“おねだん以上”的お買い得ムードに加え、近年は若々しさを押し出していることが成功の背景にある。

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ダチアのフルEV「スプリング」。


こんにち上海汽車系の1ブランドである「MG」も奮闘している。なんとイタリア系・外国系含め最もシェアを伸ばした。2022年が6610台だったのに対し、2023年は4倍以上の26,945台を記録している。そればかりかすでにアルファ・ロメオ(25,725台)を抜いている。

 

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SAICのMGはSUVで爆発的にシェアを伸ばしている。


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フルEVの「MG 4エレクトリック」。


そのアルファ・ロメオに迫るのは、「DRモーター」である。フィアット販売店を経営していたマッシモ・デ・リージオ氏によって南部モリーゼ州に2006年設立されたブランドだ。中国・奇瑞汽車製モデルのノックダウン・キットの供給を受けての生産であるが、車台番号に刻印される生産国は、最終組立地に準拠するのでイタリア製である。発足当初の主力は価格勝負のシティカーやLPG/ガソリン併用のコンパクトカーであったが、近年はSUVのラインナップを充実させている。ベースとなる奇瑞車のデザインや質感が向上したのも追い風となっている。その数字25,275台は前年同期比25%以上の増で、MINIやテスラを超える。ちなみに、デ・リージオ氏は2022年に、幻のスポーツカー・ブランド「O.S.C.A.」の商標権をマセラティ家の末裔から購入している。

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「Dr4.0」は奇瑞ティゴー4のノックダウン生産だが、独自の装備が加えられている。ベースモデルは1.5リッター・ガソリンで、LPG併用モデルも用意されている。「19,900ユーロ(約312万円) から」という戦略的価格で売られている。


「リンク&コー」は、浙江吉利控股集団とボルボの合弁会社によるブランドである。その数3541台は、前年同期比12.7%だが、レクサス(3487台)、スバル(2457台)を超えている。2023年12月現在、唯一の車種は「01」と呼ばれるハイブリッド車だ。ボルボXC40と同一のプラットフォームを用いて中国の工場で生産されている。新興ブランドながら、月額600ユーロ(約9万4千円)のサブスクリプションや、24-60ヶ月のリースといったプラン、さらにショールームの呼称を「クラブ」とするなど、次々と話題を提供し続けているのも奏功している。

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「リンク&コー01」。2023年2月ローマで。

 

VW系の「クプラ」も成長めざましい。こちらは前年比48%増を記録している。ブランドはもともとスペインのバルセロナを拠点とする「セアト」のスポーツ仕様に与えられていた呼称を2018年に独立させたものだ。

リンク&コーと同じ吉利系で、EV専門ブランドの「ポールスター」も2022年の僅か36台から2023年は833台と飛躍的伸びを示した。実際に、イタリアの都市部やアウトストラーダで見かけるようになった。

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「ポールスター2」 イタリア国内でショールームは、2023年12月現在ローマとミラノのみ。整備は一部のボルボ・ネットワークが担当している。


ポールスターに続くのは、インドの「マヒンドラ&マヒンドラ」である。かつてピックアップトラックで欧州の足がかりをつくった同社だが、今日では価格的にリーズナブルなシティカーやSUVに軸足を移しつつある。2023年の数は833台にとどまるが、それでもフェラーリ(617台)、ランボルギーニ(354台)をはるかに上回っている。参考までに、マヒンドラ&マヒンドラの親会社は、イタリアを代表するカロッツェリア「ピニンファリーナ」を2015年から所有している。また、関連会社「マヒンドラ・レーシング」は、フォーミュラEに2014年から参戦している。

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「マヒンドラ&マヒンドラXUV100 NXT」。


■お年寄りの足が店のお洒落カーに変貌

一般車の登録台数ランキングに上がってこないため台数は明らかでないが、欧州連合規格でクアドリサイクルと呼ばれる市街用軽便車にも新ブランドが続々参入している。

このカテゴリー、もともとは500ccの汎用ディーゼルエンジンが多く用いられていたが、近年脚光を浴びているのはBEVモデルだ。「XEV(エクシヴ)ヨーヨー」といった新興ブランドの製品が、いずれも個性的なデザインで登場。「軽便車=お年寄りの足」といった長年のイメージを塗り替えつつある。アイキャッチを兼ねて導入する商店も増えてきた。

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「XEVヨーヨー」。イタリアのデザイン/研究拠点が開発に参画。中国で生産されている。イタリアでの価格は、エコカー奨励金適用後12,990ユーロ(約204万円)から。


2024年は、中国系を筆頭にさらなるブランドがイタリアの乗用車市場に参入すると思われる。いっぽうで、ひっそりと市場から引退してゆくブランドもあるかもしれない。

イタリアといえば、この国の政権は1990年代以降、ときおり非政治家内閣もはさみながら、中道右派と中道左派の間を行き来してきた。自動車マーケットもそれに似て、きわめて流動的だ。ゆえに刺激的なのである。

 

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参考までに既存メーカーもクアドリサイクルに参入している。これはシトロエンの「アミ100%エレクトリック」。WMTCモードによる航続可能距離は75キロメートルにとどまるが、この規格に与えられた法規により、イタリアでは14歳から運転できる。

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文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

写真 Akio Lorenzo OYA/FIAT/Renault

 

筆者の考えだが、マイナーチェンジ後のモデルは、デザイン的に好感がもてるものが極めて少ない。機能性向上以上に「話題づくりのための改変」を強く感じてしまうのだ。ところが最近、フェイスリフトしたのみ、ときにはロゴを変えただけ、つまり“プチ整形”をしただけで、ぐっと若返りを果たしたクルマがみられるようになった。その三例を紹介しよう。

 

■新ロゴは“日焼け防止効果”も : フィアット

最初はフィアットである。2020年に制定された新ロゴは、歴史的FIATロゴをモダナイズしたものである。

真っ先に採用されたのはフルEVである2000年の500eの後部であった。

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2020年に制定されたフィアットの新ロゴ。

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導入第1号は、2020年に発売されたフィアット500eだった。

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シートのパターンとしても使われている。

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新ロゴの起源は、20世紀初頭におけるフィアット車のグリルに遡ることができる。

 

しかし、導入が最も効果的だったクルマといえば、2代目ティーポ(日本未導入)である。トルコ工場で造られる同車は、西欧市場では、まず4ドアセダンから導入された。加えて警察をはじめ官公庁需要が多かったことから、フィアットのラインナップでは、比較的ユーザー年齢層が高めのイメージがつきまとった。しかし、2020年に導入されたマイナーチェンジ版は、新ロゴを鼻先に付けてグリルまわりの意匠も変え、カタログカラーを華やかにたおかげで、かなり若がえった。


日頃イタリアで暮らし、街なかのクルマを観察している筆者の視点からすると、この新ロゴにはもうひとつメリットがある。2006年に導入された従来エンブレムは、赤字にFIATの文字を配したものだった。実はこれは、イタリアの強い陽光に晒されると、退色しやすい。ステアリング中央のホーンパッドに貼られた同様のものもしかりである。対して、新しいロゴのバッジは退色知らずだ。

 

フィアットの最新ニュースとしては、2023年から広告に“斜めの4本線”を採用し始めた。これは1968年アーミン・ウォクトのデザインによる18°に傾けた平行四辺形のFIATマークを意識したものである。

 

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2代目フィアット・ティーポ 前期型。2018年撮影。横基調のクローム入りグリルは、ややおじさんぽかった。

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フィアット・ティーポ前期型。2021年2月ピストイア旧市街で撮影。

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フィアット・ティーポ前期型ステーションワゴン。2021年2月、シエナ外国人大学本部前で撮影。

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2代目ティーポ後期型。新ロゴ+ハニカム状グリル、そしてバンパーの意匠変更で一気に若返った。

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ただし、ホーンパッド中央には、従来のバッジが残る。

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参考までに、新FIATロゴは、2023年に発表された街乗りEV・新トポリーノにも採用されている。(photo:FIAT)

 

■意外にググる人続出 : キア

次はキアである。韓国発祥のブランドであるが、スロバキアにも生産拠点をもち、欧州向けの54%は同工場製である。

 

そのキアは2021年1月に新ロゴを発表した。メーカーの言葉を借りれば「製品やサービスの体験を通じてお客様に提供することを約束する一連の価値観と、ブランドの野心を象徴することを意図している」という。そのうえで、「流動的で、連続的なストロークによる力強さで、キアのインスピレーションへのコミットメントを伝える」としている。さらにシンメトリーな要素は、自信と自己肯定感のメタファーと説明する。

 

思えば近年のキアは、自動車のデザイン自体が洗練されたおかげで、逆に旧来の楕円形ロゴの古さが目立ってしまっていた。それが新ロゴでは見事に修正されたばかりか、クルマのモダンさまで増幅させている。大成功である。

 

ただし意外なことが起きたのも事実だ。2022年11月24日付のイタリア紙「コリエッレ・デッラ・セーラ」電子版によると、グーグルで「KN car」と入力して検索しているユーザーが増加しているという。つまり、新ロゴがKNに見える→どこの自動車メーカーなのかが不明でググる人が少なくないということだ。新ロゴは、壺のようにも、向かい合った人のようにも見える多義図形「ルビンの壺」になってしまうことを、ロゴの制作者は予想できなかったのかもしれない。

 

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旧ロゴをフロントフード先端に付けたキアの高級モデル、オプティマ。2021年シエナで撮影。

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こちらも旧ロゴを提げたキアのコンパクトカー、リオ。2015年シエナで撮影。

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新ロゴが貼られたキアのクロスオーバーSUV、ストニック。2020年までは、旧ロゴが貼られていた。

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キアのSUV、スポルテージ。

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同上。2021年に登場したこの4代目スポルテージは、最初から新ロゴが与えられていた。

 

■忘れてほしくない「おねだん以上」 : ダチア

最後はルノー・グループの「ダチア」である。ブランドの始まりは、まだ社会主義体制だった1966年のルーマニアで、国家プロジェクトとしてルノー8および同12のライセンス生産を開始したことにさかのぼる。やがてベルリンの壁崩壊後の1999年、ルノーがダチアを買収。以来、ルノーのサブブランドとしての役割を担うこととなった。2004年に新開発のセダン「ローガン」を発売すると、その低価格が受けて欧州で大ヒット。以来モデルチェンジと車種拡充を繰り返して、今日に至っている。

 

現在のスローガンは、Dacia, simply the essentialsだ。2022年フランスの乗用車販売台数で、主力車種「サンデロ」は64,293台を販売し、ブジョー208に次ぐ2位の座に輝いた。

 

そのダチアが、社内チームによる新ブランド・アイデンティティを導入したのは2022年のことだった。新ロゴは、一目見ただけで、頑強さと安定感を感じさせることを目指したという。そして文字が意図的にミニマルにデザインされているのは、「ブランドの冷静で独創的な精神を視覚的に表現するため」と説明されている。さらにDACIAのDとCは「出会いを表現しており、チェーンのような連帯と強い絆」を象徴したものだそうだ。

 

筆者の視点からすれば、新ロゴの効果は、「サンデロ」のフロント部において顕著だ。以前はクローム塗装したプラスチックのためか、廉価なファミリーカーのイメージが漂っていた。ところが、ロゴとフロントグリルを変えただけで、かなり精悍になった。とくに新グリルはあたかもライトと連動して常時点灯しているかのような錯覚を抱かせる巧妙なものだ。

 

ちなみにダチアのイメージチェンジ戦略はさらに加速中だ。2025年にはダカール・ラリーへの参加を表明している。願わくば、今日の成功のきっかけとなった、「おねだん以上」的キャラクターを忘れないでいてほしいものである。

 

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クロスオーバーSUVである3代目ダチア・サンデロ・ステップウェイ(左)前期型。グリルはガッツ満点のムードを演出したかったのだろうが、煩雑で安っぽく見えてしまう。右はサンデロ前期型。

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2022年パリ・モーターショーに展示されたダチア・サンデロ・ステップウェイ後期型。クロームを使わなくても、堂々とした印象を醸し出せることの好例である。

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旧ロゴ時代のダチア製SUV、ダスター(photo:Renault)

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新ロゴとともに刷新されたブランド名サインが与えられたダスター。


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文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

 

■ホイールキャップがさらに充実していた

フランスを発祥するチェーン系カー用品店で、日本でもオンラインストアが運営されている「ノルオート」。本連載では、2021年から毎年イタリア・フィレンツェ郊外の店舗を訪問してきた。今回もおよそ1年ぶりに訪問してみた。

 

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フィレンツェ郊外にあるノルオート カンピ・ビセンツィオ店。オープンは2017年4月だから、早くも7年目に入ったことになる。

参考までにイタリア語でNorautoは「ノラウト」、フランス語では「ノロト」に近い発音である。

 

ちなみに今回の目的はオイル交換で、筆者のクルマの場合94.35ユーロ(約1万5千円)だった。内訳はノルオート純正オイル5リッター+オイルフィルター 89.95ユーロ、廃棄物処理費用1.5ユーロ。これに、接触部分の保護費用(シート、カーペット、ステアリングなど。恐らく新型コロナウィルスの規制が厳しかった時代の名残だろう)2.9ユーロが強制的に加わっている。だが、合計金額からすると巷の修理工場やガソリンスタンドの標準もはるかに安い。

 

さて、本題である。前回訪れた第32回では「WRC(世界ラリー選手権)」ブランドのホイールキャップがあることを記したが、今回は「ノルオート」オリジナルおよび「ミシュラン」の樹脂製ホイールカバーが並んでいた。いずれも、どのクルマにもフィットしそうな好デザインだ。ミシュランに至ってはセンター部分にリフレクターが付いていて、それは夜間の側方視認性向上に寄与するという。

 

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ノルオートの汎用ホイールカバー。16インチ用は36.95ユーロ(約5800円)。

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ミシュランのリフレクター付き汎用ホイールカバー。15インチ用は44.95ユーロ(約7400円)。ただし、30%レジ割引のステッカーが。

 

ミシュラン・ブランドの、ジャッキ、タイヤコンプレッサー、高圧洗浄機も販売されていた。このあたりはさすがフランス系といえる。

 

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ミシュランは、まだまだ続く。各種ジャッキ、ジャッキスタンド(ウマ)、タイヤコンプレッサー。

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高圧洗浄機、フットポンプ、そしてインパクトレンチ。

 

■あのボルボのアイディア装備も

次にステッカーのコーナーを見る。真っ先に目に入ったのは、フィアット500用各種である。同車がデビュー後15年経過してもイタリアにおいて登録台数3位(2022年)という、ロングセラー&人気車種であることを物語っている。いっぽう、ミリタリー・スターのステッカーは、ジープ・レネゲード(参考までに、イタリアで販売されているのは国内工場製である)の純正アクセサリーで人気に火がついたものだ。

 

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フィアット500のダッシュボード用イタリア・トリコローレ(3色旗)ステッカー。イタリア「クアトロエッレ」社がメーカー公認で製造している。

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同じくクアトロエッレ社の製品から。汎用のトリコローレ・ステッカー。

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ジープ・レネゲードの人気を背景に人気上昇中のミリタリー・スター。

 

ただし個人的にもっと気になったのは、「チケットホルダー」である。長年ボルボ車のフロントウィンドウ、Aピラー脇に付けられてきたのに似た透明のクリップだ。パーキングチケットを置いておく際、ガラスとダッシュボードの隙間に入り込んでしまう恐怖、またはドアを締めた途端風圧で舞ってしまう不安をいつも感じている筆者としては、どんなクルマにも後付けできるのは有り難い。

 

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ボルボ風チケットホルダーは2.99ユーロ(約480円)。

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本文には記していないが、ついでに見つけたサンバイザーのオーガナイザー。ゴムバンドに挟む方式で、収納ポケット式よりも小洒落ている。9.95ユーロ(約1580円)。

 

■マンマの国ゆえ

実用的アクセサリーといえば、後付けのバックセンサーやリアビューカメラのコーナーは、過去訪れたときに比べて品数が増えている。たとえメーカーのカタログにバックビュー・モニターが用意されているも、当初は買わない→やがて後方が確認しづらいことに辟易する→後付けを探す、というユーザーがいることを窺わせる。その背景には、目視で後方を見にくいデザインのクルマが増えていることがあるに違いない。

 

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日本同様、ナンバーフレーム一体型のリアビューカメラが販売されている。これはドイツのテクナックス社製。

 

いっぽうお楽しみアクサセリーとしては「首振りダックスフント」を見つけた。振動を与えると首がゆらゆらと揺れる。リアウィンドーの中に置いて、後続車のドライバーを楽しませることができる。1970年代ドイツのドライバーの間で流行したものだ。その証拠に近年は、当時の標準的なデザインを模したものがメルセデス・ベンツから純正アクセサリーとして販売されており、日本でも購入できる。いっぽう陳列されていたのはノルオートのオリジナル商品で、ドイツ系よりもコミカルな顔をしている。価格も12.95ユーロ(約2千円)と手頃だ。

 

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ノルオートの首振りダックスフント。

 

次はフロアマットである。店頭に陳列されているものを眺めていると、こちらの普及車種が何であるかわかってくる。ちなみにアルファ・ロメオはAlfa Roméoとアクセントが付いているところが、フランス発祥の会社っぽい。

 

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フロアマットのコーナー。 “地元”フィアット用が圧倒的多数派だが、次にシトロエン、ルノーといったフランス系が多いのはノルオートならでは。

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アルファ・ロメオ用フロアマットの一部には、フランス語風にAlfa Roméoの表記が。

 

日本でもみられるカスタムメイド対応のものもある。その作例として置いてある中に「W(viva) LA MAMMA」があった。日本語にすれば「母ちゃん万歳」である。繰り返しになるが、これは作例である。だが顧客にオーダーする気に起こさせる文言を選んでいるに違いない。だとすると、家族を大切にする国民性ゆえ、母親にプレゼントするばかりか、自分用に購入する親思いの青年もいるのでは?と思ってしまうのであった。ノルオート散策は、いつも愉快だ

 

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カスタムメイドの作例コーナー。左から「TI AMO!(愛してる)」「W LA MAMMA(母ちゃん万歳)」「The Best」、そしてよくある人名「FRANCESCO」。

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オイル交換が終了した我がクルマを引き取りに行ってみると、珍しいアルファ・ロメオ156クロスワゴンQ4が店舗前にいた。新車時代も少なかったモデルである。

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文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

写真 what3words/Akio Lorenzo OYA

 

■自動車ブランドも採用続々

3つの単語の組み合わせで位置情報を共有するアプリ/サービス「what3words(ワットスリーワーズ)」。日本では2022年にSUBARUが「クロストレック」の車載ナビに採用し、2023年に入ってからは「NAVITIME」が対応した。そのため、すでに耳にした、もしくは体験した読者諸氏もいることだろう。今回は、イタリア在住の筆者がどう使用しているかを記しながら、海外旅行や出張で活用するヒントを例示したい。

 

what3wordsついて簡単に説明すると、世界中を57兆個の3メートル四方で区切り、各マス目に固有の3つの単語の組み合わせを割り当てた位置情報アプリ/サービスである。アプリはAppStoreとGoogle Playから無料ダウンロードが可能だ。例として「ここち。ゆいいつ。くちぶえ」といった3語で、他の人と今いる場所や所在地を共有できる。提供しているのは、2013年ロンドンに設立された同名の企業だ。what3wordsは現在までに170の国・地域において、数千にのぼる企業、政府機関、NGOなどに採用されている。欧州の自動車ブランドでは、メルセデス・ベンツやランボルギーニによってすでに導入されている。


 
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今回はwhat3wordsを、イタリアでどのように使えるかを記す。アンコーナ大聖堂は日本語表示で「ひさしく。きんにく。げんし」、英語では「rich.skipped.making」だ。(photo:what3words)

 

■メリット、すでに数々

イタリアを含むヨーロッパでは、街路に「◯◯通り」といった名前がつけられていて、片側に奇数、もう片側に偶数の地番が振られている。日本の◯丁目△番地✕号からすると、きわめて明快かつ探しやすい。広場(ピアッツァ)の場合も、ぐるっと一周にわたり地番が割り振られている。それなら、「イタリア旅行で場所を探すのは、楽勝じゃないか?」もしくは「従来の地図アプリで十分ではないか?」というと、そう簡単にはいかないケースが多々ある。以下に例を挙げて説明しよう。

 

・巨大な広場での待ち合わせ

広場のどのあたりで落ち合えば良いのか、たびたび苦労する。筆者が住むイタリア中部シエナにあるピアッツァ・デル・カンポ(カンポ広場)などは好例だ。面積は5885平方メートル。テニスコートにすると30面分だ。「ミッレミリア」のときは数百台のクルマが次々やってきて広場を埋め尽くす。イタリアを代表する伝統行事のひとつである競馬「パリオ」が開催されるときは、約3万人がすし詰め状態となる、と書けば、その広さがイメージしていただけるだろう。そうした状況で旅のお供とはぐれたとき、what3wordsは強い味方となる。

 

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シエナのカンポ広場。競馬「パリオ」の日は、約3万人の観衆が埋め尽くす。what3wordsは「きしめん。ふとん。せんえん」。

 

・運転中

街路名は、基本的に建物の角に記されているが、せっかくの表示が軒先のテントなどで遮られていることが多々ある。古すぎて、煤けていたり薄くなっていることもある。とくに運転中に確認することは、かなり難しいし、危険である。従来のカーナビを使っているとわかるが、つい似たような街路に入ってしまったあとに、気がついて引き返すこともある。what3wordsの正確さは、そうした間違いをかなり解消できる。

 

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街路名は店のテントや樹木に隠れている場合がままある。運転中に確認することは、かなり難しい。

 

・アグリトゥリズモを探すとき

what3words設立のきっかけのひとつは、創立者クリス・シェルドリックの、イタリアにおける苦い経験だったようだ。世界各国で音楽のライブイベント運営の業務をしていた彼は、ローマから南に1時間行ったところが会場であったにもかかわらず、ドライバーは北に1時間の場所に全機材を降ろしていたという。彼が間違いに陥った詳しい状況は知らないが、これはイタリアで起こりうる「あるある」だ。たとえば、山を表すモンテ◯◯、聖人の名前に由来するサン△△といった地名がやたら多い。地域では同じ聖人を祀っていたりするから、同名であっても、大きな町の名前であったり、単なる小さな集落の名前だったりする。カーナビの地名検索だけでは罠がある。

以後シェルドリック氏は、GPS座標を使用するようにしたものの、「数字16桁を正確に伝えるのは、容易ではなかった」と振り返っている。

 

ところでイタリアでは、自治体の観光振興政策も手伝って、アグリトゥリズモ(農園民宿)が人気である。そうした施設は景観規制にしたがい、日本のホテルのような大看板を出していない。また、他地域からやってきて開業する人もいるので、地元の人に聞いても知らない場合が多い。郊外ゆえ、「〇〇地区」という大まかな行政区画名しか存在しないこともままある。幸運にも、従来の地図アプリで表示されても、ヘクタール級のワイン畑をもつような農園では、入口がどこかを探すだけでひと苦労である。そうした場合でもwhat3wordsなら、素早く場所を特定できて助かる。

 

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トスカーナの郊外で。

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モンテプルチャーノ郊外「ポッジョ・ゴーロ」は、12ヘクタールのワイナリーを備えたアグリトゥリズモ。what3wordsは「みずくらげ。ひなたぼっこ。あかだし」。オーナーでドバイから移り住んだニアール&パーリ夫妻と。

 

・著名人の墓地

これが意外に迷う。著名人の墓の位置が簡単に探訪できる日本の多磨霊園などと異なり、イタリアやフランスなどではガイドブックにも「◯◯墓地にあり」としか記されていない場合が多い。そのうえ、現地に丁寧な案内があることは極めて少ない。好例は、筆者が住むトスカーナ州にある画家カラヴァッジョこと、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)の墓であろう。長年にわたる名所のような印象を抱く人が多いだろうが、実は遺骨の鑑定調査が行われたあと、終の地ポルト・エルコレに墓が建てられたのは、没後404年たった2014年だった。さらに、町議会会派の抗争に巻き込まれるかたちで、わずか5年後の2019年には現在の墓地内に移設された。しかも、墓の近くには案内板がない。その結果、イタリア美術を代表する人物のひとりにしては、あまりに目立たない場所にある。そうしたケースでもwhat3wordsは高い精度で所在地を特定できる。

 

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トスカーナ州ポルト・エルコレにて。カラヴァッジョの命日が近い2023年7月のある日、勝手に公式参拝をする筆者。what3wordsは「すうかい。にくせい。めぼしい」。

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こちらはポルト・エルコレから北東へ約62キロメートル。サトゥルニアの川湯。「ちやほや。つきでる。しんめ」

 

 

■カーライフを良くする予感

いっぽう近い将来、人々が外国旅行の際、クルマに関連することで、what3wordsが活躍するのは以下の2点だろう。

 

・Uberなどのライドシェアやタクシー配車アプリ

そうしたサービスは、乗車地をリクエストできる。しかし、従来の地図アプリは、正確さが限定されている。したがって、とくに大きな交差点では、どこで待っているのか、もしくは相手がどこに来るのかを連絡し合うのは難しい。実際筆者は、乗車後ドライバーから「そんなところで待たれても、危なくて停車できないよ」と文句を言われたことがあった。 what3wordsが普及し、またライドシェアやタクシー配車アプリとの連携が進み、ドライバーがwhat3wordsでお客を拾う正確な位置を教えてくれるようになれば、問題は解消できるだろう。

 

・故障・事故などのトラブル時

ディストリビューターの故障、クラッチの抜け、オルタネーターの故障…と、たびたびイタリアで立ち往生を経験してきた筆者は、そのつど保険会社や日本のJAFに相当するロードサービスに携帯電話からコールした。毎回、現在地をオペレーターに伝えるのに、それなりに苦労した。走り慣れた道で、何万回と通過したエリアであっても、ふと考えれば正確な地名を意識したことはない。従来の地図アプリを開いても、ちょっと郊外に行くと、かなり大雑把で、地名を把握するのが難しい。what3wordsにコールセンターが対応するようになれば、より簡単に伝えられるようになる。さらにいえば、言葉の壁も下げてくれることが期待できる。すでに英国のAA、オーストリアのOAMTCといった自動車連盟に加え、民間系のロードサービス数社がwhat3wordsを導入している。これについてwhat3wordsシニアPRマネジャーのフランキー・コーワン氏は「これらの企業やその顧客からのフィードバックは、信じられないほどポジティブなものでした。近い将来、ヨーロッパ中のより多くの故障サービスのプロバイダーが私たちの技術を採用することを期待しています」と文書でコメントを寄せた。

 

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各国のロードサービスに普及すれば、故障・事故の際、現在位置の伝達に力強い味方となるだろう。

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英国でのシーン。緊急時の現場到着時間短縮も、大いに期待できる。(photo:what3words)

 

■「カッコいい3単語」を求めてうろつく

ここまで便利であると、「建物内の何階にいるのかまで伝達できればいいのに」と、欲ばりたくなる。それに関してコーワン氏は「what3wordsは2Dですべての場所をカバーしていますが、インドアアドレスをサポートする技術(インドアポジショニング、インドアマッピング、インドアナビゲーション)はまだ十分に普及しておらず、現時点では高さを含む位置指定に大きなメリットはありません」と説明。そのうえで、「私たちwhat3wordsは、ビジターが求める最も有用な情報は、しばしば複雑な建物における正確な入口の位置であることに着目し、現在このニーズにうまく機能しています」と回答を寄せた。

 

ところで、日本語の3単語で表示されるものの、「外国人に場所を伝える場合、どうすればよいのだ?」 という疑問が沸く。そこで調べてみると、what3wordsアプリをダウンロードすると50以上の言語からメイン言語を選べることがわかった。アプリをダウンロードしている相手に3ワードを伝える場合には、そのまま目的地のアドレスをシェアすると、相手がwhat3wordsアプリで設定しているメイン言語に自動的に切り替えられる。3ワードを共有するにはアプリをダウンロードしていることが大前提となる。だが第二言語を設定できるので、異なる言葉を話す相手でも、相手の言語で3単語を伝えれば容易に位置情報が共有できる。

 

面白いのは、言語によって同じアドレスもまったく異なるワードが割り当てられている。3ワードは翻訳されたものではなく、ランダムな言葉なのだ。たとえば前述のシエナのカンポ広場は、日本語では「きしめん。ふとん。せんえん」である。英語では「stew.gets.multiple」だ。もしやイタリア語にした場合、「きしめん部分がパスタになるのか?」と勝手な空想を楽しんだ筆者だが、実際は「eroiche.trovate.portava」だった。とくに、ここではeroicaという著名なヒストリック自転車走行会の舞台になる。「偶然にもなかなか良い3wordsではないか」と、自分で決めたわけでもないのに妙に嬉しくなる。ちなみに、近年スタジアムなどで普及しているネーミングライツ(命名権)のように、将来は好きな3語を販売するビジネスを考えているか?とコーワン氏に質問したところ、「いいえ。ランダムに振られた3語はオフラインでも利用できるよう完全に固定されています」とのこと。すなわち、売買はありえないのである。

 

それはともかく、3メートル四方ということは、ほんの数歩移動しただけで、3つの単語が変わってしまう。これは筆者が住むシエナにある、見晴らしの良い公園にあるベンチである。場所は「じゅうみん。わいわい。かんしん」。なかなか良い組み合わせだ。だが、すぐ隣のベンチは「まよった。ばんにん。ひもち」である。待ち合わせのとき、可能な限り格好いい3単語を相手に送信すべく、うろうろ動きまわってしまう、我ながら自分の見栄っ張りぶりが、情けなくなった。

 

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シエナ旧市街にある公園で。「じゅうみん。わいわい。かんしん」


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Akio Lorenzo OYA
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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