仕事の打合せのため、ネギとこんにゃくの町、上州・下仁田へ。
山ふところに抱かれた風光明媚なこの町だけど
同県に住みながらも出掛けることは、そうなかった。
古くは鉱物、養蚕で財をなした町、
華やいだ頃のおもがげが、あちらこちらに漂っている。
趣ある駅でパチリっといこうとした、まさにそのとき
視界のフレーム切れ端に、わずかに映る薄緑の個体。
この色は見間違うはずはない!それはルガノ・グリーン。
一瞬にして口は乾き、動悸さえ起こしそうな思いを押さえつつ駆け寄ると
やはりそうだ。「彼女」は確かにそこにいた。
左ハンドル、D8、少し色褪せた塗色、でもハンドルの剥離はないし、シートは傷一つない…
ピニンそのものの存在感が、純正のままを固持したその状態からはっきりとうかがえる。
No.の小数字は2ケタか..たぶんワンオーナーなのだろう。
契約駐車場には歯科医院の名前がある。その主だろうか。
ああ、いつも自分ちで見ているのに、どうしてこんなに興奮し得るのか。
・・・
どれくらいの時がたったのだろう、
冷静さを取り戻すには、なお少なからずやの時を要したのだった。
ふとした出会い、こころざわめく。
(小山に囲まれた盆地のようなところに下仁田町はある。昭和レトロでいとよろし。)
(駅前の契約駐車場に佇むルガノ・クーペ。逆光に浮かび上がるシルエットが美しい。)
(かつて花街として賑わった山懐の小さな町の小さな中央通り。大正・昭和の空気がただよう。)