文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Akio Lorenzo OYA/FIAT/Renault
筆者の考えだが、マイナーチェンジ後のモデルは、デザイン的に好感がもてるものが極めて少ない。機能性向上以上に「話題づくりのための改変」を強く感じてしまうのだ。ところが最近、フェイスリフトしたのみ、ときにはロゴを変えただけ、つまり“プチ整形”をしただけで、ぐっと若返りを果たしたクルマがみられるようになった。その三例を紹介しよう。
■新ロゴは“日焼け防止効果”も : フィアット
最初はフィアットである。2020年に制定された新ロゴは、歴史的FIATロゴをモダナイズしたものである。
真っ先に採用されたのはフルEVである2000年の500eの後部であった。
2020年に制定されたフィアットの新ロゴ。
導入第1号は、2020年に発売されたフィアット500eだった。
シートのパターンとしても使われている。
新ロゴの起源は、20世紀初頭におけるフィアット車のグリルに遡ることができる。
しかし、導入が最も効果的だったクルマといえば、2代目ティーポ(日本未導入)である。トルコ工場で造られる同車は、西欧市場では、まず4ドアセダンから導入された。加えて警察をはじめ官公庁需要が多かったことから、フィアットのラインナップでは、比較的ユーザー年齢層が高めのイメージがつきまとった。しかし、2020年に導入されたマイナーチェンジ版は、新ロゴを鼻先に付けてグリルまわりの意匠も変え、カタログカラーを華やかにたおかげで、かなり若がえった。
日頃イタリアで暮らし、街なかのクルマを観察している筆者の視点からすると、この新ロゴにはもうひとつメリットがある。2006年に導入された従来エンブレムは、赤字にFIATの文字を配したものだった。実はこれは、イタリアの強い陽光に晒されると、退色しやすい。ステアリング中央のホーンパッドに貼られた同様のものもしかりである。対して、新しいロゴのバッジは退色知らずだ。
フィアットの最新ニュースとしては、2023年から広告に“斜めの4本線”を採用し始めた。これは1968年アーミン・ウォクトのデザインによる18°に傾けた平行四辺形のFIATマークを意識したものである。
2代目フィアット・ティーポ 前期型。2018年撮影。横基調のクローム入りグリルは、ややおじさんぽかった。
フィアット・ティーポ前期型。2021年2月ピストイア旧市街で撮影。
フィアット・ティーポ前期型ステーションワゴン。2021年2月、シエナ外国人大学本部前で撮影。
2代目ティーポ後期型。新ロゴ+ハニカム状グリル、そしてバンパーの意匠変更で一気に若返った。
ただし、ホーンパッド中央には、従来のバッジが残る。
参考までに、新FIATロゴは、2023年に発表された街乗りEV・新トポリーノにも採用されている。(photo:FIAT)
■意外にググる人続出 : キア
次はキアである。韓国発祥のブランドであるが、スロバキアにも生産拠点をもち、欧州向けの54%は同工場製である。
そのキアは2021年1月に新ロゴを発表した。メーカーの言葉を借りれば「製品やサービスの体験を通じてお客様に提供することを約束する一連の価値観と、ブランドの野心を象徴することを意図している」という。そのうえで、「流動的で、連続的なストロークによる力強さで、キアのインスピレーションへのコミットメントを伝える」としている。さらにシンメトリーな要素は、自信と自己肯定感のメタファーと説明する。
思えば近年のキアは、自動車のデザイン自体が洗練されたおかげで、逆に旧来の楕円形ロゴの古さが目立ってしまっていた。それが新ロゴでは見事に修正されたばかりか、クルマのモダンさまで増幅させている。大成功である。
ただし意外なことが起きたのも事実だ。2022年11月24日付のイタリア紙「コリエッレ・デッラ・セーラ」電子版によると、グーグルで「KN car」と入力して検索しているユーザーが増加しているという。つまり、新ロゴがKNに見える→どこの自動車メーカーなのかが不明でググる人が少なくないということだ。新ロゴは、壺のようにも、向かい合った人のようにも見える多義図形「ルビンの壺」になってしまうことを、ロゴの制作者は予想できなかったのかもしれない。
旧ロゴをフロントフード先端に付けたキアの高級モデル、オプティマ。2021年シエナで撮影。
こちらも旧ロゴを提げたキアのコンパクトカー、リオ。2015年シエナで撮影。
新ロゴが貼られたキアのクロスオーバーSUV、ストニック。2020年までは、旧ロゴが貼られていた。
キアのSUV、スポルテージ。
同上。2021年に登場したこの4代目スポルテージは、最初から新ロゴが与えられていた。
■忘れてほしくない「おねだん以上」 : ダチア
最後はルノー・グループの「ダチア」である。ブランドの始まりは、まだ社会主義体制だった1966年のルーマニアで、国家プロジェクトとしてルノー8および同12のライセンス生産を開始したことにさかのぼる。やがてベルリンの壁崩壊後の1999年、ルノーがダチアを買収。以来、ルノーのサブブランドとしての役割を担うこととなった。2004年に新開発のセダン「ローガン」を発売すると、その低価格が受けて欧州で大ヒット。以来モデルチェンジと車種拡充を繰り返して、今日に至っている。
現在のスローガンは、Dacia, simply the essentialsだ。2022年フランスの乗用車販売台数で、主力車種「サンデロ」は64,293台を販売し、ブジョー208に次ぐ2位の座に輝いた。
そのダチアが、社内チームによる新ブランド・アイデンティティを導入したのは2022年のことだった。新ロゴは、一目見ただけで、頑強さと安定感を感じさせることを目指したという。そして文字が意図的にミニマルにデザインされているのは、「ブランドの冷静で独創的な精神を視覚的に表現するため」と説明されている。さらにDACIAのDとCは「出会いを表現しており、チェーンのような連帯と強い絆」を象徴したものだそうだ。
筆者の視点からすれば、新ロゴの効果は、「サンデロ」のフロント部において顕著だ。以前はクローム塗装したプラスチックのためか、廉価なファミリーカーのイメージが漂っていた。ところが、ロゴとフロントグリルを変えただけで、かなり精悍になった。とくに新グリルはあたかもライトと連動して常時点灯しているかのような錯覚を抱かせる巧妙なものだ。
ちなみにダチアのイメージチェンジ戦略はさらに加速中だ。2025年にはダカール・ラリーへの参加を表明している。願わくば、今日の成功のきっかけとなった、「おねだん以上」的キャラクターを忘れないでいてほしいものである。
クロスオーバーSUVである3代目ダチア・サンデロ・ステップウェイ(左)前期型。グリルはガッツ満点のムードを演出したかったのだろうが、煩雑で安っぽく見えてしまう。右はサンデロ前期型。
2022年パリ・モーターショーに展示されたダチア・サンデロ・ステップウェイ後期型。クロームを使わなくても、堂々とした印象を醸し出せることの好例である。
旧ロゴ時代のダチア製SUV、ダスター(photo:Renault)
新ロゴとともに刷新されたブランド名サインが与えられたダスター。