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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
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文と写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

 

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シエナのルノー販売店「パンパローニ」に併設された民間車検場。

 

日本で自動車を所有するうえで、頭が痛い維持費のひとつといえば昔も今も車検である。今回は、イタリアの車検制度についてリポートしよう。

 

■格安ユーザー車検の落とし穴

イタリアで車検は一般的に「レヴィジオーネ」と呼ばれている。有効期間は新車が初回登録時から4年。以後は2年ごとである。定員10名以上の車両やタクシー/ハイヤーなど運送事業用車両は1年ごとである。ここまでは日本と細部は異なっても、さほど大きな違いは無い。

 

検査を実施しているのが陸運局と民間車検場双方なのも、日本と同様である。警察による路上検問などで車検切れが発覚した場合に反則金が課されたり、場合によっては差し押さえとなるのも、日本と同じだ。

 

いっぽうで、幸いなことにイタリアの車検料金は安い。かつ定額である。さらに、保険の仕組みが異なるため、日本の自賠責保険料に相当するものは含まれない。実際の料金はというと、自家用乗用車の場合、2024年は陸運局が45ユーロ(7300)、民間車検場が79ユーロ(13千円。換算レートは20241月現在)だ。

 

円にして5700円も安いのなら陸運局によるユーザー車検一択ではないか、と思う読者もいるだろう。何を隠そう筆者も一度、それを試みたことがあった。だが施設は、火〜金曜のそれも午前中しか開いていない。空き照会はいまだメールのみで、予約可能日はかなり先なのが常だ。加えて筆者が住むシエナの場合、陸運局がひどい郊外に立地している。ゆえに待ち時間を潰す場所がない。ついでにいえば(当時乗っていた筆者のクルマがあまりに古かったのが原因なのだが)検査官のチェックが厳しい。実際、排ガス濃度がやや高かったうえ、シートベルトの規格が古いことを指摘されて、泣く泣く撤収した。

 



その後
、知り合いの元整備士のおじさんに車検を頼むようになった。朝、家までクルマを取りに来て来て、午後に届けてくれた。彼が陸運局に持っていったのか、それとも旧知の民間車検場に持って行ったのかは知らない。料金は法定費用+おじさんのお小遣いだったと思う。かなり便利だったのだが、おじさんが歳をとって完全に引退してしまったのを機に、頼めなくなってしまった。

 

■教育的指導も

過去数回は、市内にあるルノー系新車ディーラーの併設サービス工場に車検を依頼してきた。筆者のクルマはルノー系ではないのだが、快く引き受けてくれるうえ、比較的家の近くにあるから便利なのだ。

 

筆者の場合、1月が車検月だ。前月である12月になると、そのディーラーから車検が迫っていることを示す封筒が舞い込む。それと前後して、自動車関連税を管轄している州からも車検期限が迫っていることを知らせる通知が同じく郵便で届く。

 

今回ディーラーからの手紙を読むと、いつの間にかネット予約を導入していた。車検部門は朝が8時半から12時半まで。地域の習慣にしたがって2時間の昼休みをはさんで、午後は2時半から19時までである。およそ30分刻みで入庫時刻が選択できるようになっている。翌日も空いていたが、より筆者が都合の良い翌々日にした。実はネット予約後、何らかの障害で受付確認済メールが届かず、結局電話でリコンファームした。だがこのあたりはイタリアでは日常のことだから、さして動揺しなかった。

 

さて当日のこと。このサービス工場で、車検はマルコさんというスタッフが一人で担当している。A4版を4つに折り畳んだ車検証とキーを渡すと、筆者のクルマは彼の運転によって車検専用ブースへと移動した。設備は日本のものとほぼ同等といってよい。違いはといえば、マルコさんの通勤用である日本製二輪車が脇に収まっている日があるくらいだ。

 

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車検受付カウンター。

 

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車検場を表すREVISIONE VEICOLIのサインが掲げられている。車両はルノー・グループの「ダチア・サンデロ」。2023年のイタリア登録台数では「フィアット・パンダ」に次ぐ2位を記録した人気車である。

 

イタリアでは従来の検査項目に加え、2024年からエンジン・コントロールユニットに記録されている車台番号、走行距離、さらにエンジン警告灯によって表示された異常も、検査員がチェックすることが義務付けられた。それでも所要時間は3040分。ディーラー内の新車・中古車コーナー双方を散策しているうちに車検は終わってしまった。日本のスピード車検よりも短い。

 

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待ち時間に販売店部門を散策。ダチア「ダスター」は、ルノー日産B0プラットフォームを使用したSUVである

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こちらは中古車センター。2021年ルノー「クリオ1.6 Eテック・ハイブリッド」は、走行42千キロメートルで18500ユーロ(298万円)

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EVが集められた一角。手前の2020年ルノー「ZOE」は、走行76千キロメートルで14950ユーロ(241万円)

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販売店オーナーがヒストリックカー・ラリーやヒルクライムに参加するため収集したコレクション。

 

終了すると、車検証に走行距離と検査合格のステッカーが貼られる。貼り付け欄は4つしかない。足りなくなると最も古いステッカーの上に重ね張りされるので、我がクルマは16年落ちなので、部分によって厚くなっている。

 

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検査終了。新しいステッカーが貼られ、過去のものには、無効が一目でわかるよう//が引かれている。

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加えて近年は、車検証明書なるものまで発行されるようになった。

 

車検はともかく、毎回緊張するのがマルコさんの“教育的指導”である。前々回はヘッドライトの光軸ずれ、前回はドライブシャフトのブーツ劣化と、それに伴うアウタージョイント側のグリース流出だった。走行17万キロだから仕方ないといえば仕方ない。後日お金が貯まったところで、彼の同僚に直してもらった。

 

果たして今回は? 歯科医院の検診結果を聞くような気持ちの筆者にマルコさんが指摘したのは、フロントタイヤのショルダー劣化だった。実は2年前にもマルコさんに前輪の摩耗を指摘され、後日交換していた。ということは換えてから僅か1年半だ。いくら前輪駆動とはいえ、走行距離は15千キロメートルちょっとである。近年日本でも販売されている中国ブランドを選んだのだが、やはり安物買いの銭失いだったのかもしれない。

 

心中を察するかのように、マルコさんがすかさずお勧めのタイヤをメモして渡してくれた。グッドイヤー140ユーロ(23千円)、コンチネンタル系でチェコのバルム105ユーロ(17千円)、そしてグッドイヤー系でスロベニアのサヴァ100ユーロ(16千円)…と記されている。さらにキーを受け取ってクルマに乗り込み、助手席を見ると、「板金部門始めました」というチラシと、記念品のボールペンが置かれていた。いずれも従来イタリアの車検では見られなかった営業努力である。民間車検場の競合が激しくなっていることを窺わせる。

 

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助手席には、板金部門解説のお知らせと記念品のボールペンが。

 

ただし、そうした施策無しでも筆者には効き目あるセリングポイントがある。マルコさんの名字だ。「ロメオ」といい、綴りもアルファ・ロメオのRomeoと同じだ。“ルノーのロメオ”というミスマッチが逆に覚えやすく面白くて、ふたたび彼のサービス工場に車検を頼んでしまうのである。会社も本人も気にしていないだろうが。

 

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パンパローニ社車検担当のマルコ・ロメオさん。


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クプラのCセグメントSUV「フォーメンター」。VWMQB Evoプラットフォームを使用。エンジンはガソリン/プラグイン・ハイブリッド、駆動方式はFWD/AWDが用意されている。以下はいずれも2023年に筆者撮影。

 

「イタリアではイタリア車が多数派なのは当然」と思う読者諸氏は多いのではなかろうか? ところが実際は逆である。外国ブランド車のほうが圧倒的に多いのだ。20231-11月の国内登録台数(以下も同期間のデータ: 出典UNRAE)で、イタリア系ブランド車(フィアット、ランチア、アルファ・ロメオ、マセラティ、フェラーリ)の市場占有率合計は16.18%に過ぎない。VW(フォルクスワーゲン)グループのランボルギーニを足しても16.2%だ。逆にいえば、およそ84%は他国系ブランドなのである。日本の自動車販売台数で輸入車比率(日系ブランド車除く)が一桁台であるのと逆の状態といえる。


■新興ブランドが健闘

イタリアにおける外国系の登録台数首位はVW2位はトヨタである。ただし、それに続くブランドを見るほうが面白い。日本未導入のブランドが数々含まれているのだ。

まずはダチア。本欄で前回に紹介したとおり、ルノー・グループのサブ・ブランドである。近年イタリア市場で躍進目覚ましく、シェアは前年比30.56%増の5.6%・81,544台を記録。2023年通年ではフォード、プジョーそしてルノーを超え、外国ブランド3位入りは確実だ。従来からの“おねだん以上”的お買い得ムードに加え、近年は若々しさを押し出していることが成功の背景にある。

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ダチアのフルEV「スプリング」。


こんにち上海汽車系の1ブランドである「MG」も奮闘している。なんとイタリア系・外国系含め最もシェアを伸ばした。2022年が6610台だったのに対し、2023年は4倍以上の26,945台を記録している。そればかりかすでにアルファ・ロメオ(25,725)を抜いている。

 

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SAICMGSUVで爆発的にシェアを伸ばしている。


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フルEVの「MG 4エレクトリック」。


そのアルファ・ロメオに迫るのは、「DRモーター」である。フィアット販売店を経営していたマッシモ・デ・リージオ氏によって南部モリーゼ州に2006年設立されたブランドだ。中国・奇瑞汽車製モデルのノックダウン・キットの供給を受けての生産であるが、車台番号に刻印される生産国は、最終組立地に準拠するのでイタリア製である。発足当初の主力は価格勝負のシティカーやLPG/ガソリン併用のコンパクトカーであったが、近年はSUVのラインナップを充実させている。ベースとなる奇瑞車のデザインや質感が向上したのも追い風となっている。その数字25,275台は前年同期比25%以上の増で、MINIやテスラを超える。ちなみに、デ・リージオ氏は2022年に、幻のスポーツカー・ブランド「O.S.C.A.」の商標権をマセラティ家の末裔から購入している。

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Dr4.0」は奇瑞ティゴー4のノックダウン生産だが、独自の装備が加えられている。ベースモデルは1.5リッター・ガソリンで、LPG併用モデルも用意されている。「19,900ユーロ(312万円) から」という戦略的価格で売られている。


「リンク&コー」は、浙江吉利控股集団とボルボの合弁会社によるブランドである。その数3541台は、前年同期比12.7%だが、レクサス(3487)、スバル(2457)を超えている。202312月現在、唯一の車種は「01」と呼ばれるハイブリッド車だ。ボルボXC40と同一のプラットフォームを用いて中国の工場で生産されている。新興ブランドながら、月額600ユーロ(94千円)のサブスクリプションや、24-60ヶ月のリースといったプラン、さらにショールームの呼称を「クラブ」とするなど、次々と話題を提供し続けているのも奏功している。

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「リンク&コー01」。20232月ローマで。

 

VW系の「クプラ」も成長めざましい。こちらは前年比48%増を記録している。ブランドはもともとスペインのバルセロナを拠点とする「セアト」のスポーツ仕様に与えられていた呼称を2018年に独立させたものだ。

リンク&コーと同じ吉利系で、EV専門ブランドの「ポールスター」も2022年の僅か36台から2023年は833台と飛躍的伸びを示した。実際に、イタリアの都市部やアウトストラーダで見かけるようになった。

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「ポールスター2 イタリア国内でショールームは、2023年12月現在ローマとミラノのみ。整備は一部のボルボ・ネットワークが担当している。


ポールスターに続くのは、インドの「マヒンドラ&マヒンドラ」である。かつてピックアップトラックで欧州の足がかりをつくった同社だが、今日では価格的にリーズナブルなシティカーやSUVに軸足を移しつつある。2023年の数は833台にとどまるが、それでもフェラーリ(617)、ランボルギーニ(354)をはるかに上回っている。参考までに、マヒンドラ&マヒンドラの親会社は、イタリアを代表するカロッツェリア「ピニンファリーナ」を2015年から所有している。また、関連会社「マヒンドラ・レーシング」は、フォーミュラE2014年から参戦している。

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「マヒンドラ&マヒンドラXUV100 NXT」。


■お年寄りの足が店のお洒落カーに変貌

一般車の登録台数ランキングに上がってこないため台数は明らかでないが、欧州連合規格でクアドリサイクルと呼ばれる市街用軽便車にも新ブランドが続々参入している。

このカテゴリー、もともとは500ccの汎用ディーゼルエンジンが多く用いられていたが、近年脚光を浴びているのはBEVモデルだ。「XEV(エクシヴ)ヨーヨー」といった新興ブランドの製品が、いずれも個性的なデザインで登場。「軽便車=お年寄りの足」といった長年のイメージを塗り替えつつある。アイキャッチを兼ねて導入する商店も増えてきた。

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XEVヨーヨー」。イタリアのデザイン/研究拠点が開発に参画。中国で生産されている。イタリアでの価格は、エコカー奨励金適用後12,990ユーロ(204万円)から。


2024年は、中国系を筆頭にさらなるブランドがイタリアの乗用車市場に参入すると思われる。いっぽうで、ひっそりと市場から引退してゆくブランドもあるかもしれない。

イタリアといえば、この国の政権は1990年代以降、ときおり非政治家内閣もはさみながら、中道右派と中道左派の間を行き来してきた。自動車マーケットもそれに似て、きわめて流動的だ。ゆえに刺激的なのである。

 

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参考までに既存メーカーもクアドリサイクルに参入している。これはシトロエンの「アミ100%エレクトリック」。WMTCモードによる航続可能距離は75キロメートルにとどまるが、この規格に与えられた法規により、イタリアでは14歳から運転できる。

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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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