文 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA
写真 大矢麻里 Mari OYA/Akio Lorenzo OYA

フィレンツェのメンズファッション見本市「ピッティ・イマージネ109」の「FHストア」で。2026年1月撮影。
■愛車を失った代わりに夢を実現
世界屈指のメンズモード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」。年2回イタリア・フィレンツェで開催されるこのトレードショーは、紳士ファッションの行方を占うものとして知られている。日本の有名百貨店を含め世界のバイヤーが訪れることでも有名だ。主に2026/27年秋冬モードが展開された2026年1月の第109回には、758の出展者と1万9千人近いビジターで賑わった。
「FHストア」は、ずばり古き佳き時代の4輪・2輪にインスパイアされたファッションアイテムを扱うショップである。栄枯盛衰が激しいこの世界を反映し、ピッティでは少し前まで大きなブースを構えていたブランドでも忽然と姿を消えていることが珍しくない。そうしたなか「ショップとしては出展45年目。自社ブランドでも19年目」と、社主のマッシモ・ロニグロさんは胸を張る。

FHストアは1970年代のモータースポーツ・シーンを反映したアイテムのショップ。
1960年生まれの彼は、自動車レースが最も輝いていた1970年代に青春時代を送った。続く80年代はデザイナーとして服飾界で経験を積んだ。仕事の傍らで、モータリングライフもおおいに謳歌した。「二輪はBMW、ドゥカティ、カワサキ。四輪はBMW、ポルシェ、そしてメルセデスといったブランドをひととおり楽しんだよ」
みずからのショップを開いたのは2007年のことだった。「開業資金を調達するために(ポルシェ)964カレラ2カブリオを失ったけどね」とマッシモさんは笑う。当初はガルフ、ホイヤー、ル・マン24時間レースにちなんだアパレル製品を扱っていたが、後年自らプロデュースするレトロ風情溢れるヘルメットの限定販売も始めた。
オリジナルブランド「ヴィンティッジ・レースFHイタリア」は「私自身のヒストリックカーおよびヴィンティッジ・バイクへの情熱の投影」と語る。デザインはすべてマッシモ氏本人が監修している。他社の多くが低コストを追求し東欧など国外生産に移行するなか、すべてイタリア国内で行い、各アイテムは200〜500点という厳格な限定数を守っている。

牛革製バッグは280〜590ユーロ。

エイジング&ディストレスト加工が施されたジャケット。以下、多くは来シーズンのものなので価格は問い合わせのこと。
今回のピッティで彼が強調していたのはグローブ、つまり手袋のコレクションだ。世界的アパレルブランドの製品も手がける専門工房に発注したもので「1970〜80年代のポルシェ車のシートに使用されていたのと同じテキスタイルを使った」とマッシモさんは説明する。その生地は手袋だけでなく、ヘルメットの内張りやキャップにも。さらにパターンはシルクのスカーフにも反復されている。ラムレザーを用いたジャケットもイタリア国内において総手縫いで仕立てられている。

主宰するマッシモ・ロニグロさんは2026年で66歳。

往年のポルシェのテキスタイルを再現したグローブ。

スカーフにもパターンが反復されている。

こちらのスカーフには、往年のレースにおける名シーンがプリントされている。
■ほろりとさせるレター
そうした彼のブースでグリーンのバルケッタが映った1枚のチラシを発見した。何かと聞けば、マッシモ氏は「映画ですよ」と教えてくれた。『ローラ・バム 心の機械仕掛け Lola Bum La meccanica del cuore』と題したイタリア映画で、ストーリーは筆者が住む中部トスカーナを舞台にした、ほろ苦いコメディだ。そういえば地元では2025年秋、劇中に登場する看護師、修理工場のお客、レースのコミッショナーといったエキストラが募集されて、ちょっとした話題となった。インディーズではあるが、この作品にヘルメットをはじめ小道具を監修・提供したという。公開は2026年中が予定されている。

2026年公開予定の映画『ローラ・バム 心の機械仕掛け』のチラシ。
いっぽうで筆者は、商品に添えるため、マッシモさんがしたためたレターも発見した。
「弊社製品をお選びいただき、ありがとうございます。
私たちは20年間、人々の感情を揺さぶる象徴的な製品を探し求めてきました。
伝説の70年代の思い出と感情。
あなたが選んだ靴は、1970年代に有名なシチリアの職人がクレイ・レガッツォーニや ジョー・シファート(シフェール)、ニキ・ラウダ、そしてエリオ・デ・アンジェリスなど当時の有名ドライバーのために手づくりされた有名なドライビングシューズからインスパイアされています。
このブラウン、とりわけコニャック色は1970年の名門タルガ・フローリオでジョー・シファートが履いていた靴に着想を得たものです。ガルフ・カラーの伝説のポルシェ908を操縦したときです!
ヴィンティッジカーを操縦するときも、ヴィンティッジバイクを操るときも......幸運をお祈りします。
FHストア イタリア」
商品を受けとったカスタマーの笑みが目に浮かぶフレーズではないか。通販が日常生活の一部として繰り返されるなか、逆にこうしたエンスージアスト泣かせのフレーズは顧客の心をしっかりとつかむに違いない。
ピッティ期間中、当然マッシモさんのブースの目的は新規の取引先を開拓することだ。しかし、クルマ好きのバイヤーや同業他社の人にとって憩いの場にもなっている。次は6月。どのように栄光の70年代を“切り取って”見せてくれるのか、今から楽しみである。

クルマ好きの涙を誘うフレーズ。

オリジナルブランドは自身の店のほか、ザルツブルクやモンテカルロなど国外を含む15都市にパートナーでも展開している。
FH Store https://fhstore.it/