大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター
シトロエン2CVのカタチをしたパッケージ入りチョコレート、同じシトロエンのDSを叙情的にとりこんだポスター、そしてルノー4がデフォルメされて描かれた絵葉書・・・フランス・パリの土産物店には、ベレー帽やエッフェル塔型ワインとともに、コテコテのフランス車をモティーフにしたアイテムが今も並ぶ。
しかし店の外に目を向ければ、もはやそうした車たちは皆無といってよい。ちなみにタクシーも他のヨーロッパ都市同様、トヨタ・プリウスがスタンダードになりつつある。
背景にあるのは、2016年7月に施行された市条例・クリテア(Crit-Air)である。それにより、1996年12月末以前に生産された欧州排ガス基準「ユーロ1」の車両は、朝の8時から夜の8時までパリ市内での走行が禁止された。
近年パリでは大気汚染が警戒レベルを超える日が頻発し、大気汚染による健康被害が増加している。そうしたなかでの方策だ。
2040年までに内燃機関による自動車の販売・生産を禁止するとした2017年7月のフランス政府発表とともに、パリ協定を達成するための手段でもある。
この「クリテア」、フランス古典車連盟によって「コレクション用」と認定された車両は規制対象外だ。いっぽうでそこから洩れる、「ちょっとだけ古い車」は、この1年で花の都から一気に姿を消した。1970-80年代の旧車専門誌「ヤングタイマー」は、条例の審議段階から「走る権利」を訴えて読者とともにデモまで行ったが、声は届かなかった。
いっぽう、そうしたバゲットとワインの如く生活に根ざした古いクルマたちが元気なのは、全日走行が許可されている土曜・日曜そして祝日である。
ほとんどはかなり使い込まれた実用車だが、趣味性を感じる車もときおりやってくる。いずれもオーナーとともに空いた街路をのびのびと走っている。
ウィークデイの渋滞や信号待ちのなかで、そうした車が新型車よりも有害な排気ガスを撒くのを避けることができ、かつユーザーも古い車を使い続けられる。妥協策のひとつとして評価に値しよう。
普段珍しい新車が通るたび、しげしげと眺めてしまい不審の目でみられる筆者だが、ちょっと古いクルマのオーナーに関していえば、総じてそれがない。
皆さんもパリに赴いた際は、彼らに温かい眼差しを送ってみてほしい。あなたに自慢に満ちた笑みを返してくる確率が高いから。

セーヌ左岸パリ14区で、シトロエン・サクソ。

日本食レストラン街として有名なピラミデ駅付近で。シトロエンBX後期型。
パリ15区で夕陽を浴びるプジョー309。
サルトルも眠るモンパルナス墓地で。3代目ホンダ・プレリュード発見。
こんな“古典”もときおり。初代フォード・マスタング。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)