日本における夏の風物詩のひとつといえば、「花火大会」である。ただしイタリアではこの時期、日本ほどポピュラーではない。代わりに花火は大晦日から元旦に変わった瞬間に上げるものだ。
いっぽうイタリアで春から夏の名物といえば、「ルナパーク」と呼ばれる期間限定の仮設遊園地である。開催に先立ち、街中には下の写真のような告知ポスターが貼られる。「何十年同じモノ使ってんだよ」と思わずツッコミを入れたくなるデザインである。 もっと細かいことをいえば、ジェットコースターがあっても、イラストレーションに描かれているほど立派なものではない。 何事にも細かい日本だったら、不当景品類及び不当表示防止法とかに抵触しそうだ。だがイタリアで、そんなうるさいことを言う人は聞いたことはない。それよりも、こうしたポスターのおかげで、子供の頃から想像の世界と現実の区別を自然と学びながら大人になってゆける。 マンボなデザインも、下手に変更すると識別できなくなり、「今年は開催中止か?」とみんな混乱するに違いないから、これでいいのだ。 期間限定遊園地「ルナパーク」告知ポスターの一例。
ルナパークにおける定番といえば、メリーゴーラウンドである。イタリア語では「ジョストラ」という。 そのジョストラは、ルナパーク以外にもアウトレットパークや街中の広場にも長期設営されていることがある。 メリーゴーラウンドに欠かせないものといえば、「馬」や「馬車」であるが、「自動車」も交じっているのが通例だ。 また、メリーゴーラウンドでなくても、そうした場所には車を模した、コインを入れると揺れる遊具が数々存在する。イタリアでは、その名も「ジョストリーナ・ア・モネータ(コイン式メリーゴーラウンド)」という。 今回は、それらの遊具の車種観察記である。
23年近くにわたるボクの観察によれば、明らかに多いのは、「フェラーリ風」「ポルシェ911風」「ジープ風」である。 ちなみにイタリアでこの業界では、北部ヴェネト州に本拠を置く「ATM」という1960年代創立の遊具メーカーが有名だ。
注目すべきは、フェラーリ風とランボルギーニ風の数を比較した場合、圧倒的にフェラーリが多いことだ。日本を含む海外では両ブランドが対等に語られることが多い。対して、イタリアではF1チームを擁することなどによるメディア露出の多さが奏功し、ファン以外のブランド浸透度では圧倒的にフェラーリが優位だ。それを遊具は反映している。
イタリアらしいものもある。好例は下の画像の3輪トラック「ピアッジョ・アペ」風だ。商用車がモティーフとなるのには、三つの背景がある。ひとつは、そのユーモラスな風貌であろう。ふたつめは、どこの街角でも生息している抜群の認知度、そして三つめは、商店オーナーの家族以外だと、本物に乗る機会は意外にないことがある。 再びシエナ。駅前ショッピングセンターに2015年頃設置された3輪トラック、ピアッジョ・アペ風。
多くの読者がご存知のとおり、ランボルギーニの歴史は、フェルッチョ・ランボルギーニによって第二次大戦直後に興されたトラクター製造会社に遡る。1963年に自動車部門「アウトモービリ・ランボルギーニ」が設立されたあともトラクター部門は存続する。1972年にフェルッチョはトラクター/自動車部門の双方の売却を決定。トラクター部門はイタリアの農機会社「サーメ」に吸収された。「ランボルギーニ」ブランドのトラクターは、サーメ社改めSDF社によって2019年現在も生産されている。
イタリアでは今日でも70歳以上のお年寄りだと「ランボルギーニ」というと、スーパーカーよりも真っ先にトラクターを思い出す人は少なくない。そうした世代の人たちは、孫が「“トラクター”に乗りたい」といえば、懐かしんでガマぐちを開くだろう。
最後にもうひとつ。面白いのは、こうした遊具は、トレンドを反映することだ。 2007年に現行フィアット500登場すると、イタリア中で「なんちゃって先代フィアット500」を見かけるようになった。 先代フィアット500風も定番のひとつである。ATM社製。 エンブレムがFIATではなく「FAIT」なところがミソ。 いっぽう下の写真はシエナで先日撮影したものである。こちらはとりあえず世界的玩具メーカーのミニカーブランド「ホットホイールズ」の公認だ。 モティーフとなった車種は特定できないが、左右フェンダー/バンパーと一体の切り立ったエアインテークを採用している。日本でも現行トヨタ・プリウス後期型などにみられる近年のデザイントレンドである。 自動車メーカーの現役デザイナーも、休日に遊園地やショッピングセンターで、こうした遊具を目にするたび、自らのデザインの方向性が正しかったことを「ムフフ」と心の中で喜んでいるに違いない。 2019年、シエナの駅前ショッピングセンターに新たに加わった1台。最新のデザイントレンドを巧みに反映している。