とどまるところを知らないオフロード熱。祖母が倒れるとの一報あり、仕事を終えて西東京へ向かう。実際には大したことがないことをこの目で確認するやそわそわしてくる。ここまで来たら1時間ほど足を伸ばせば山林地帯である。病人に無理をさせないようにとの大義名分を掲げて21時前には失礼した。
TVニュースでは地域によって大雨警報が出ている日の夜である。どしゃ降りとまではいかないまでも、かなりの雨模様。「単独で夜間の林道なんて。しかも明日も仕事はあるんだぞ」とオトナの理性的判断と、「行けるときに行かなくてどうする」という本音の叫び。こう考えていること自体、すでに完全にその気になっている。「現地に行ってから引き返すかどうか決めよう」この時点で腹は決まっていたともいえる。
狙っているルートは東京・五日市から林道で山を登り、これを越えて八王子側に出るコース。未舗装のダート区間はそれほど長くはなく、ほとんどが荒れた舗装路のはず。およそ10年前に走行した記憶では。
林道入り口のゲートは開いていた。進入禁止の林道が増えていると聞くが、ここはまだ大丈夫なようである。準・地元とはいえ、明かりひとつも見えない暗闇は久しぶりである。ノーマルのフロントランプだけでは前方の限られた視野のみ。左右は窓に反射した明かりが見えるだけで外は何も見えない。ましてや天候は雨。登っていくと霧が立ち込めてきて前方視野も5m程度しかない。まるで空中浮遊しているような視界である。ヘアピンカーブでは真っ暗闇に向かってステアリングを切っていくことになる。直前まで何が見えてくるかがわからない不安。落石やら、積もった木枝やら、1車線分の道の半分を覆う草木など。何も見えないはずの暗闇に、反射的に何かが見えた気がすることも多く、昔の人々が暗闇から連想して幽霊やら妖怪やらを生み出していった過程がわかる気がしてきた。これは単独で脱輪でもしようものなら笑い話にならないな、と思いつつその緊張感こそ求めていた非日常でもある。安全を担保するにはハイマウントのランプはあったほうがいいのは違いない。
およそ1時間、八王子側の民家の明かりが見えてきて林道ルート終点付近のところで予想外の事態が起こる。出口側の林道が進入禁止by警視庁。厳重なゲートで封鎖されていた・・・。どんな無茶を試みたとしても、戦車でもなければ突破はできない。選択の余地がなく、引き返すことになった。しかも方向転換の余地がない。この暗闇を、左下の1個しかないバックランプとブレーキランプを頼りに後退していく…。この予想外の復路は難易度が高かった。かろうじてしか見えない視野の中、脱輪の心配をしながら左右にステアリングを切ってバック。見えないところは慎重を期して車を降りて確認、またバック。求めていた非日常も、予定時間の何倍にもなりそうな雲行きになってしまった今となっては後悔の念が増してきた。途中、ぎりぎり方向転換できるところを発見し、ようやく前を向いて再出発となった。やはりバックランプの増強こそが優先事項であると痛感。自宅に帰りついたのは2時過ぎ。翌日の業務に多少ダメージが残り…。