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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
witten by Akio Lorenzo OYA
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「シトロエンのメガネ」大ヒット

「シートロエンseetroën」とは、シトロエンが販売しているリラクゼーション用アイウェアである。円形フレームの下半分に入った青い液体が、装着している人の平衡感覚維持を助ける。

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絶賛発売中のリラクゼーション用アイウェア「シートロエン」を試す筆者。2018年パリ・モーターショーで。



もともとフランス南東部のスタートアップ企業が開発した製品で、乗り物酔いに悩まされていた人の間で話題となった。
シトロエン・ブランドで販売するにあたり、パリのデザイン事務所がリファイン。2018年7月にヨーロッパでリリースすると、初期分1万5千個がたった3日で売り切れてしまった。
日本でもプジョー・シトロエン・ジャポンが2019年6月に導入したところ、たちまち完売御礼になり、再入荷した後もまた売り切れた。

振り返れば、ヨーロッパの自動車メーカーは1990年代から、自らのブランドを冠したマウンテンバイクやファッション、ステーショナリーといったコレクションに力を入れてきた。そうしたなかでもシートロエンは、記録的ヒットといえよう。

そこで今回は、自動車ブランドが手がけてきた「クルマ以外のプロダクト」の歴史である。

フィアットの冷蔵庫

そうした商品は、「草創期型」「拡張型」「福利厚生型」そして「耐乏型」に分類できると筆者は考える。

「草創期型」とは自動車産業進出以前に、生業としていた分野である。
トヨタやスズキの織機、マツダのコルク栓に相当する。
ヨーロッパの自動車メーカーで最も良い例は、今日まで続くプジョーのコーヒーミルだ。もともと鋼(はがね)の製造を得意とした同社が、1840年に作り始めたものである。ダイムラーのライセンスで自動車の製造を開始したのは1890年だから、半世紀早いプロダクトということになる。

フランスにはそうしたミルの歴史を知り、コレクションする愛好家が少なくない。

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筆者の知人でパリ在住のディディエ氏もプジョー製コーヒーミルのコレクターである。


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同じプジョーの壁掛け式コーヒーミル。

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イタリアの知人から、何かの機会にもらったマイナスドライバー。これも往年のプジョー・グループの製品である。

「拡張型」とは業務拡張期の製品を指す。
フィアットは1899年の創立以来、さまざまな分野の製品を手掛けてきた。それを象徴するのは、1935年から使われ始めたスローガン「terra, mare,cielo(陸・海・空)」だ。

それ以前の1917年には、鉄道車両の製造に進出。部門は2000年にアルストム社に売却されるまで存在した。ちなみに、我が家があるシエナとフィレンツェを結ぶ非電化区間には、1980年代に造られたフィアット製ディーゼルカーが今も現役で走っている。

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フィアット製ALn668 3100系気動車。シエナ駅にて。

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フィアット製気動車のプレートには、懐かしいFIATロゴが。

そのフィアットは、1938年から米国ウェスティングハウス社のライセンスを取得して家電も生産していた。第二次大戦後の経済成長期には、フィアット製冷蔵庫や洗濯機は豊かな暮らしのシンボルとしてもてはやされた。
今日でもコレクターズアイテムとして保管され、ときにはこれまた現役で「フィアットの冷蔵庫」が使われているのは、イタリアが輝いていた時代のシンボルであるからにほかならない。

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フィアット製冷蔵庫。赤いバッジは後付である。トリノ・リンゴットの食堂「オステリアF.I.A.T.」にて。

イタリアを代表する自動車部品サプライヤーだった旧マニエッティ・マレリも、クルマ関係以外のものを手掛けていた。
1891年に歴史を遡り、1919年からはフィアット用電装部品を製造を開始した同社だが、1930年には「ラジオマレリ」の商標で家庭用ラジオ製造に進出している。戦後はテレビやオーディオにまでラインナップを広げたが、本業である自動車電装に注力すべく、1975年をもって撤退している。参考までにマニエッティ・マレリは2018年、FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)の傘下を離れ、カルソニックカンセイと経営統合。2019年10月にマレリと社名を改めた。

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ラジオマレリによる往年のプロダクトが、青空骨董市で売られていた。シエナにて。

ソーセージにパーツコード

「福利厚生型」とは、本来社員用に開発された製品だ。たとえばダイムラー社は1905年頃、炭酸水、レモネードそしてラスベリードリンクを毎日5〜6千本供給していた。従業員のワイン飲みすぎを防止するためだったという。収益は従業員向け基金に充当されていた。

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ダイムラーの従業員用レモネード瓶。1905年頃のもの。シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館蔵。

いっぽう今日まで続く好例といえば、「フォルクスワーゲン(VW)のカリーヴルスト用ソーセージ&ケチャップ」であろう。
Currywurstとは原則として、輪切りソーセージにカレーパウダーとケチャップをかけて食べるファストフードである。
1974年、VWはウォルフスブルク本社工場敷地内に、社員食堂での朝食および昼食用ソーセージ工場を開設している。なお、ソーセージには「199 398 500 A」という、他のVW部品と共通様式のパーツコードが割り当てられている。2010年からはベジタリアン向けも加えられた。

VWケチャップは、そのソーセージ用として誕生したものだ。製造は食品メーカー「クラフト」が担当している。その酸味の効いた独特の味は、ふと懐かしくなる。このあたりが長続きの秘密かもしれない。

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VWのケチャップのクラシック・バージョン。ラベル下部には「そして、うまい」が3回も繰り返されている。

双方を用いた「VWのカリーヴルスト」は、毎年春ドイツのエッセンで開催される「テヒノクラシカ」をはじめとする自動車イベントでも、たびたび供されて大人気だ。

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VWのカリーヴルストは、屋内会場で展開されるときも大人気。2011年テヒノクラシカにて。



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フォルクスワーゲン(VW)のクラシック部門によるカリーヴルスト屋台。2012年ドイツ・エッセンのヒストリックカー・イベント「テヒノクラシカ」で。

台所に映える3連メーター

最後の「耐乏型」とは、第二次大戦直後、自動車以外の活路を模索したものである。その究極は、ごく少数製造されたとされる「アルファ・ロメオのオーブン」であろう。

熱源はガスと電気。イタリアでは今日でも薪式のオーブンが各地で使われていることを考えると、当時極めて先進的かつ高価だったに違いない。細部のフィニッシュからは、戦前に超高級車メーカーであったアルファ・ロメオのプライドが感じられる。3連メーターも自動車を想起させる。
航空機産業だったピアッジョは1946年にスクーター「ベスパ」で、民生産業への転換に成功した。アルファ・ロメオも、オーブンで成功していたら、またブランド初の普及モデルである1950年「1900」が失敗していたら、日本の「リンナイ」「パロマ」のようなメーカーになっていたかもしれない。

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イタリア・ミラノ郊外アレーゼのアルファ・ロメオ博物館が所蔵する同社製オーブン。

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アルファ・ロメオ製オーブンのクローズアップ。3連メーターは左から温度、 各機能の作動状況、タイマー。

冒頭に話を戻せば、シトロエンがこれを機会に、メガネのメーカーになってしまうことは考えられない。しかし、ダイムラーのスマートがEV専用ブランドにシフトしようとしている昨今である。気がつけば、一部のメーカーがシェア&自動運転EV用ブランドに変貌し、「昔はあのクルマ、自分で持ってたんだぜ」などと自慢すると、若者にホラ吹き男扱いされる時代がやってくるかもしれない。
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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