文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
アルフィスタならご存知のとおり、2020年はアルファロメオにとって110周年のアニバーサリーイヤーだった。これは、前身であるロンバルディア自動車製造有限会社(A.L.F.A.)が1910年に発足したことによる。
2020年、ミラノの北西アレーゼにある企業ミュージアム「アルファロメオ歴史博物館」は3月から新型コロナ対策の休業命令により休館していたが、6月末に土日限定で再開した。
アルファロメオの創立記念日である2020年6月24日には、記念イベントが開催された。こちらも安全対策としてリアル参加者と車両数は限定されたが、代わりにストリーミング放送でその模様がライブ配信された。
再開した博物館では、もうひとつ特別企画がスタートした。それが今回紹介するバックヤード・ツアーである。予約制で、約1時間半をかけて非公開の車両保管フロアをめぐる企画である。1976年の開館以来初の試みという。
まずは企画展「バックステージ」を見学して開始を待つ。こちらにも常設展にない幻のワンオフや、世に出なかった試作車・試作品が数々紹介されている。
ブースで異彩を放つオーブンは、第2次大戦末期、戦後事業を模索すべく疎開先であるオルタ湖畔の設計室で試作されたものだ。価格が定められ販売網まで構築されていたが、最終段階で発売に至らなかったという。熱源は電気とガス。今ふうにいえばハイブリッドだ。日本のいくつかの自動車メーカーも終戦直後、家庭用品を作って糊口をしのいでいたことは知られるが、さすがアルファロメオ。目指していたレヴェルが違う。
1983年にローマ教皇ヨハネ・パウロⅡ世がミラノを訪問した際に用いられた「アルファ6」も展示されている。
スタッフのイレニアさんは、説明しながら次々とカバーを剥(は)いでゆく。 彼女の解説の内容は一般来場者だけなく、かなりのエンスージアストも飽きさせない。その口調からけっして丸暗記ではない。説明の合間に秘密は?と聞けば「パッシオーネ(情熱)です」と答えてくれた。FCAの人材選びは秀逸である。
1939年「6C 2500SSスパイダー・コルサ」は、あのベニート・ムッソリーニのお抱え運転手であったエルコレ・ボッラートが、トリポリのレースに駆ってでた車である。日本で菅首相を乗せて走るレクサスLS600hの運転手がル・マン24時間レースに出場するようなものと考えると、これは痛快である。 1939年「6C 2500SSスパイダー・コルサ」 アルファロメオといえば航空機エンジンが有名だが、その他の乗り物も。1920年の農業用トラクター(右)は2000台が造られた。1969年のパワーボート(左)は225.15km/hを記録した。
この博物館のバックヤード・ツアーの嬉しさは、日常感が溢れていることである。 車両コンディションを維持すべく空調こそ効いているものの、ビジター用の順路が作ってあるわけではない。参加者は、ときに車と車の間の狭い隙間を抜けてゆく。 参考までに、写真撮影も自由だ。 一部の車の周囲には、いつのものか知れぬトロフィーや縮尺版クレイモデルが掃除されぬまま転がっている。 確認を経ていないので記すことは憚るが、「恐らくあの生産型のバリエーション案」と思われるものもある。ファンの目でしかわからない宝物も数々あるのだ。 解説ボードも、博物館のリニューアル前に使われていたものを片付けたままなので、近くにある車両と合致していない。 そこを巡るのは、ちょっとしたキュレーター感覚だ。 ヴェールがめくられ、ヒストリーが語られる車も、訪れてみないとどれかはわからない。 リストランテでいうところの“シェフのおまかせコース”だ。 とりあえず、2020年中は継続するとのこと。「期間限定メニュー」だとすると、これまたありがたみが増すのである。
アルファロメオ歴史博物館 Museo Storico Alfa Romeo-La macchina del tempo Viale Alfa Romeo, Arese(Milano)ITALIA 開館日 2020年10月現在、土日のみ 時間 10:00~18:00 (入館は17:30まで) 一般12ユーロ https://www.museoalfaromeo.com/it-it/Pages/MuseoStoricoAlfaRomeo.aspx
バックヤード・ツアー 完全予約制 土日のみ 6ユーロ(入館料別) 予約は上記サイトから 「4C」の各国仕様の違いを解説するスタッフのイレニアさん。