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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
witten by Akio Lorenzo OYA
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文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
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フランス車専門パーツショップ「デ・マルコ・パーツ」の店主、マッシモさん。かつて地元サッカーチームの選手としても活躍していた。堂々たる体格は、そのためだった。

空冷VWショップで修行

今年に入ってから風の便りで、筆者が住むシエナの隣町にフランス車パーツの専門店があることを知った。
連絡をとると、受話器の向こうの店主は「君のことを前から知っている」という。不思議に思いながら、我が家から約30kmのところにあるショップを目指した。

所在地を頼りに辿り着くと、倉庫街の一角だった。張り紙が指し示すまま呼び鈴を鳴らす。
鉄扉が開くと、赤いルノー4が顔を覗かせた。隠れ家食堂的な感覚である。

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その店は、シエナ県ポッジボンシ市の倉庫街にあった。

店主のマッシモ・デ・マルコさん(1984年生まれ)は、長身の若者だった。
到着の挨拶もそこそこに、なぜ筆者のことを知っていたのかというと、彼が以前も自動車パーツ販売業界に携わっていたからだった。
「イベントで、何度か君を見かけたことがあるんだよ」。

高校を卒業後、19歳で就職した。
ところが勤め始めてみると甘くなかった。毎日注文の電話を取るたび、自分の知識をはるかに超えた細かいパーツの名前が次々と耳に飛び込んできた。
彼は、ガールフレンドの父親が所有していたガレージを借りることにした。
「標本になる車を持ち込んでは、毎晩夜遅くまで分解・組立を繰り返して、どの名前のパーツがどこに付いているかを覚えていったんだ」
努力家である。ちなみに、そのガールフレンドが今の夫人だ。

フランス車は“外車”にあらず

いっぽうプライベートのマッシモさんは、フランス車のもつキャラクターに魅せられていった。
ここでイタリアにおけるフランス車事情を説明しよう。
この国でルノーやシトロエンは、長年フィアットやオペルと同じポピュラーカーであり、外国車という意識はなかった。

とくにルノー4は、人々にとってイタリア車に限りなく近い認識だったといってよい。
当時の大衆車に珍しく大きなテールゲートをもっていたことから、貨客兼用車としてイタリアでも絶大な人気を誇ったのだ。
「同じフランスの大衆車であるシトロエン2CVより愛用されたのも、それが理由だったんだよ」とマッシモさんは語る。たしかに生産終了後30年近くが経過した今でも、農家や左官屋さんの軒先で、筆者もたびたび見かける。

参考までに、ルノー4は、1962年から1964年まで提携先であったアルファ・ロメオの南部ポミリアーノ・ダルコ工場でも組立生産されていた。1962年統計によると、イタリアでは10,686台のルノー4が販売され、ルノー・ブランドをフィアットとアルファ・ロメオに次ぐ3位に押し上げる原動力となった(データ出典:パノラマ電子版 2019年5月29日)。

いっぽう近年は、趣味として古いフランス車を楽しむ人も増えてきた。
「イタリアの古典車好きは、エンジンやスポーツマインドに惹かれるのにたいして、古いフランス車ファンは、スタイルや優雅さに魅せられるんだよ」
数々の人が筆者に語ったところによれば、1970年代から80年代初頭のイタリアでシトロエン・ディアーヌは自由の象徴であった。その前の時代であるヒッピー文化への憧れと、2CVよりも馬力が多く実用的であったことが背景にあった。
シエナ出身の元F1パイロット、アレッサンドロ・ナンニーニも免許を取得してすぐに乗ったのは、シトロエン・ディアーヌだったと筆者に明かしている。

気がつけばマッシモさんは、ルノー4、シトロエンDS(Dスペシァル)といった数々のフランス車を乗り継いでいた。
そして市場が熟したのを確認した彼は、昨2019年秋に自身のパーツショップ「デ・マルコ・パーツ」を開業した、というわけだった。

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2019年秋に開業した「デ・マルコ・パーツ」の店内。倉庫ブースも含めて500平方メートルと広い。左脇のルノー4史上初の3速となった1968年式。ただしバッテリーは、まだ6ボルトである。

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歴代ルノーのバッジ類。ドフィンのデラックス仕様であったオンディーヌのものも見える。


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普段は入れないパーツ庫コーナー。整然とした棚は、空冷VWショップ修行時代に叩き込まれた良き習慣だ。足元には、リプロダクションのルノー4用フロントフードが。

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見上げれば、シトロエン・アミ8のフロントマスク。

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ルノー・ドフィン・ゴルディーニのダッシュボード。

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オリジナルのパーツも多数。箱には「世界のルノー純正パーツ」の文字が誇らしげに。

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モデル末期のルノー4に使われていたファブリックもロールでストック。

オーダーは地中海も超えて

開業には苦労もあった。メーカー公認の有名リプロダクション専門ファクトリーがあるシトロエンと違い、ルノーのパーツはさまざまなルートから揃えなければならなかった。
一部の仕入れには、最小単位も厳格に設定されていた。
たとえば、ルノー4のウィンドーシールド用ゴムは最低4000メートル、つまり4km分を仕入れる必要があった。

フランス車のお客さんとは?
「フランスの古い車は今も比較的安いので、そのシンプルな魅力に引かれた若者が関心をもつことが多いんだよ」
ただし最近は、「貧乏だった若い時代にお世話になった車を懐かしんで、フランス車を買い求める富裕層もいるんだ」とマッシモさんは解説する。

先述の実用車が多いという事実を証明するようなこともわかった。
「毎日乗っている人からも、パーツの照会がたくさん来るんだ」
その証拠に、彼の店で古いフランス車のパーツを買い求めるお客さんの6割が、セカンドカーではなくファーストカーとして使っているという。

たちまち地元のルノー販売店はもとより、ルノーのイタリア法人でさえ、古い車の問い合わせがあるとマッシモさんの店の電話を案内するようになった。
「つい先週末は、モロッコにパーツを発送したよ」
マグレブ諸国、つまり北アフリカの旧フランス植民地では、古いルノー車がフランスやイタリア以上に現役で使われているが、良質な品を確実に手に入れられる評判からマッシモさんの店に辿り着いたのだろう。
開業からまもなく1年。早くも彼の店は、地中海の向こうのユーザーからも頼りにされ始めている。


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往年の指定サービス工場用整備マニュアルのライブラリー。

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本棚のごとくルノー4のドアが並ぶ。

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こちらのルノー4は1972年式。信頼できるカロッツェリアやメカニックと連携して、レストアも手掛けている。


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「今日の車にないシンプルさや、スパルタンなキャラクターで、若者たちも魅了している」とマッシモさんは話す。


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ショールームには、懐かしい指定サービス工場や販売店の看板が。


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マーシャルのディストリビューター片手に、オーダーの電話に応じるマッシモさんは36歳。
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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