文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
彼女に会いたくてドライブ→検挙
イタリアでは新型コロナウイルス感染対策として、2020年3月10日から事実上の国土封鎖と移動制限が実施されている。急務でない生産・商業活動も3月12日から休止されたままだ。
当初4月3日だった期限は2回にわたり延長され、本稿執筆時点では5月3日まで続く予定だ。そのとおりになると、約2ヶ月弱にわたり封鎖が行われることになる。
今回は、そうした状況下、イタリアの中古車市場はどうなっているのかを探ってみた。
その前に、筆者がどのような生活をしているか、カーライフを中心に説明しよう。
徒歩であれ車であれ、外出は厳しく制限されている。
具体的には、食料・生活必需品・薬品の購入、通院、食品や医療機器生産など許可業種の通勤に限られる。
家屋周辺の散歩は許されているが、気分転換のドライブは不可能だ。一部州ではジョギングさえ許されていない状況を考えれば当然である。
ちなみに先日我が県で、ある若者が本人いわく「彼女が恋しくなり」会いに行こうとクルマを走らせていたら検挙された事件は、同情も加わって全国ニュースとなった。
外出の際は内務省発行の自己申告書をダウンロード・出力したうえで、必要不可欠な移動であることを示すための目的地を記入。加えて、新型コロナ隔離対象者でないことを宣誓する文に署名して携行しなければならない。
隣の自治体への移動さえ許されていない。検問は市警察・国家警察そして軍警察(憲兵)によって路上において実施されている。筆者は先日、アルファ・ロメオ・ジュリエッタの覆面パトロールカーも確認した。
罰金の金額は3月26日、最高3千ユーロ(約36万円)まで引き上げられた。
参考までに4月1日にインターネット受付が開始され、筆者も申し込んだ自営業者向け一時給付金は一律600ユーロ(約7万1千円)にとどまる。万一検挙されたら、一気に吹き飛ぶ額だ。
給油所はライフラインのひとつとして開店許可業種だが、売店は営業していない。
ガソリン価格の元となる原油価格は18年ぶりの安値というのに、自由に車を運転できないのは、なんとも皮肉である。
ただし周囲のイタリア人に関していえば、筆者が思っていた以上に辛抱強い。
3月最終日曜日からサマータイムに切り替わって夜が明るくなった。日中の気温も日増しに温暖になっている。それらが人々の心理にプラスに働いていることは明らかである。
あとは、本格的な夏の日差しとなって彼らが大好きな海に行きたくなる前に、この災難が収束することを願うばかりである。

商業施設の休業が命じられた2020年3月12日午前に撮影。この日からシエナ市のFCA販売店中古車展示場は、今日まで閉鎖されたままだ。
売れる車の10台に8台は中古車
この状況下、自動車販売店の多くは修理部門を予約制にし、緊急性を有するものを優先している。
ショールームは営業が許されていないので、各ブランドはインターネットで見積や予約を続ける旨アピールしてきた。
ただし実際の結果は惨憺たるものだった。2020年3月の登録台数は28,326台で、前年同月(194,302台)と比べマイナス85.4%となった。
自動車購入マインドが極端に冷え込んだことを如実に物語っている。
今回のテーマである中古車も同様に影響を受けている。イタリアでその市況を示す自動車の名義変更数によると2020年3月は110,715台で、前年同月(270,942台)と比較して、59.1%のマイナスとなった(イタリア自動車クラブ調べ)。
新車+中古車の合計を元に中古車の比率を計算してみると、2019年3月は58%だったのに対し、2020年3月は79%。中古車需要が急上昇したことがわかる。
イタリアでは、「km0(キロメトロゼロ)」と呼ばれる登録済新古車が、平常時から相当数流通していて、多くのユーザーは新車よりもまずそちらを検索する習慣が定着しているのも事実だ。それにしても、極言すれば売れる車の10台に8台は中古車になってしまったのである。
そうした状況下で中古車価格はどうなっているのか。
業界を俯瞰したデータはまだ発表されていないので、筆者が過去にチェックしていたものを参考にお伝えする。

ミラノにあるメルセデス・ベンツ販売店に並ぶ大量のスマート・フォーフォー。2019年5月撮影。
写真は昨2019年5月末、ミラノを代表するメルセデス・ベンツ販売店で撮影したものである。ここは州内最大級のディーラーで、いつも大量のメーカー認定中古車を、いわば均一価格で扱っているので、時系列での価格推移をみるにはうってつけだ。
そのとき並んでいた「スマート・フォーフォー」は大半が2017年登録、つまり2年落ちで走行3万キロ台。価格は9900ユーロ均一であった。
今回執筆にあたり同じ販売店のウェブサイトを見る。すると2018年登録、つまり同じ2年落ちでほぼ同様の仕様の車が7900ユーロで売り出されている。2000ユーロ(約23万円)も安くなったことになる。
同じ店のメルセデス・ベンツAクラス(W176)A180dも比較してみる。走行4万キロ弱・3年落ちのモデルは昨2019年に20,900ユーロで大量に売られていたが、現在確認すると1000ユーロ(約12万円)下がって19,900ユーロ(約236万円)だ。
ディーゼル復活の兆しか
次に個人的好奇心も手伝って、「新車当時、世間的には不人気だったものの、気になっていた車」の相場も確認してみる。
参考にしたのは、5万軒のディーラー・2百万台を網羅する欧州最大の中古車情報サイト「アウトスカウト24」である。

ランチア・テージス(本文中の車両とは関係ありません)。
まずは「ランチア・テージス」。イタリア国内では55台がリストアップされている。
新車時に官公庁やハイヤーで使われた個体が多いためだろう、大半がディーゼルで走行20万キロ台が中心だ。最安は2002年登録の1500ユーロ(約17万8千円)、最高でも2008年登録で1万0999ユーロ(約130万円)である。

アルファ・ロメオ・ブレラ(本文中の車両とは関係ありません)。2018年シエナにて撮影。
「アルファ・ロメオ・ブレラ」もバーゲンといえる。135台も出品されていて、およそ1万3千ユーロ(約154万円)が中心価格帯といえる。格安は走行18万キロで2900ユーロ(約34万円) の2009年2.4JTDmディーゼルだ。
実は新型コロナウイルス以前にも、中古車価格は下落していた。理由は少なくともふたつある。
ひとつは税務調査だ。近年イタリアでは新車/中古車問わず、価格が2万ユーロ(約250万円)以上の車両を購入した者は、原則としてすべてが調査の対象となっている。
前述のメルセデス・ベンツAクラスが19,900ユーロという微妙な価格設定に書き換えたのも、それを意識したと考えてもよいだろう。いくら高級車でも高額では売れないのだ。
ディーゼル車に対する環境規制の強化も価格低下に拍車をかけた。
先に挙げたイタリア車のディーゼルは、いずれも欧州排出ガス基準における「ユーロ4」である。すでにミラノをはじめ北部大都市の数々では乗り入れが禁止されている。
ただし、ディーゼルの中古車に限っていえば外出規制解除後、若干人気が持ち直すかもしれないと筆者はみる。
イタリア政府が新型コロナ対策に注力するため、これまで進められてきた脱ディーゼル化や電気自動車(EV)インフラの拡充に遅れが生じることが予想できるからだ。
休業措置で収入が減少している国民に、すぐにEVに買い替えよ、とはいえない。
燃料価格という面からしても、環境政策で長年軽油をガソリンより高価に設定しているスイスと違い、イタリアの給油所では今も軽油のほうがガソリンより安い。
新車当時から「イタリアの道には大きすぎる」といわれていたテージスやブレラが売れ始めると到底思わないが、そのような理由で、安くなったディーゼル中古車に一定の需要が生じるかもしれない。
ウチもこれで十分?
筆者がもうひとつ、意外な引き合いがあるのではないかと予想しているのは、「クアドリチクロ・レッジェーロ」と呼ばれる軽便車である。
欧州委員会が定めた規格で、車両重量425kg以下、最高速度45km/h以下、ガソリンの場合排気量50cc以下、その他(ディーゼルなど)は出力4kW以下と定められている。
ゆえに高速道路の走行は許可されていないが、日本の原付用に相当する免許で運転が可能だ。イタリアでは14歳から操縦が許されている。
もともとは普通免許の更新が難しくなった高齢者が主なユーザーだったが、税金・保険とも原付二輪車に準じることから、経済が低迷する近年では幅広い年代に需要がある。
「ラ・レッププリカ」紙2017年4月11日付電子版がイタリア自転車・自転車協会(ANCMA)のデータとして伝えたところによると、イタリアでは一段上の規格も含め約8万台のクアドリチクロが走っているという。
中古も一定の市場がある。価格にもそれが如実に反映されていて、10年落ち・走行52,000kmでも4500ユーロ(約53万円)という強気のオファーさえネット上で見かける。
生活が厳しくなるなか、クアドリチクロ・レッジェーロの需要は、より加速するかもしれない。
我が街の公共駐車場には、少し前から「売りたし」の貼り紙とともに、赤いクアドリチクロが置かれている。週一度家を出るのは近所の買い物だけという外出制限生活のなか、その車の横を通るたび「ウチも、実はこれでいいんじゃないか?」と考え始めた筆者である。

外出制限で閑散とした公共駐車場。VENDESI(売りたし)の張り紙とともに置かれたイタリア製クアドリチクロ「ジンコ」。2020年4月10日、シエナにて撮影。