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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
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文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Akio Lorenzo OYA/Stellantis

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料理人、アントニーノ・ヴィターレさん(1987年生まれ)と、彼の2006年フィアット・ムルティプラ。

早くも発売四半世紀

「フィアット・ムルティプラ」をご記憶の方は多いだろう。イタリアでの発売は1998年だから、2023年でちょうど誕生四半世紀を迎える。

全長は3.99メートルにもかかわらず、横3人掛け✕前後2列で6人乗りを実現した、ユニークなミニMPVだった。その座席配置に至った経緯が面白い。元となったのは開発スタート時、先に商用車で合弁事業「セヴェル」を展開していたPSAプジョー-シトロエンとの契約だ。「両社は、全長4メートル以上の5人乗りモデルを独自に販売しない」という一文があった。合弁生産によるMPV「シトロエン・エヴァジオン」「プジョー806」「フィアット・ウリッセ」そして「ランチア・ゼータ」と競合するような車種を独自に造らないようにしよう、という取り決めであった。ちなみに、その後フィアットとPSAは2021年に合併して今日に至っている。ロベルト・ジョリートが率いたチェントロ・スティーレ・フィアットによるムルティプラのデザインは、どの従来モデルとも異なる個性を放っていた。そのため、ヨーロッパでは賛否両論を巻き起こした。だが、デザインに識別眼をもつ人には高く評価され、早くもデビュー翌年の1999年には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の企画展に展示されるに至った。

個人的なムルティプラの述懐をお許しいただければ、2000年にフィアットから借りた広報用試乗車でトリノを出て、スイス、リヒテンシュタイン、オーストリア各地を1300kmにわたり巡った。行く先々では好奇の目をもって迎えられた。いっぽう、アルプスの峠道ではコモンレール式ターボディーゼルの潤沢なトルクのおかげできわめて快適だった。加えて、他車と比べて全長と全幅の差が少ないため、ゴーカートのようなダイレクトな操縦感覚が印象的だったものである。

ムルティプラは2004年に後期型へと切り替わる。他のフィアット車とのデザイン的共通性をもたせるべく大幅なフェイスリフトが行われ、同時に全長は4メートルを僅かに超えることになった。
そして2010年、「フィアット500L」に道を譲るかたちで、カタログから消えた。

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1998年フィアット・ムルティプラ初期型のメーカー写真。シャシーには専用スペースフレームを用いるという、実は贅沢な設計だった。

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前後とも、センターのシートは折り畳むとテーブルとして使えるようになっていた。この写真では、前席中央がオプションのクーラーボックスに換えられている。
 

きっかけは「カングーご法度」

イタリアの路上を走るクルマは、少しずつ変化している。徐々に増えているモデルもあれば、気がつけば見かけることが稀になったモデルもある。残念ながらムルティプラは後者の1台だ。

各地で多数採用されていたムルティプラのタクシー仕様も消えていった。ミラノなど大都市で排気ガス規制強化にともない、トヨタ製ハイブリッド車が主流となっていたことが背景にある。

そうしたなか、ある後期型ムルティプラのオーナーに出会ったのは、我が街シエナのワインショップでのことだった。

彼の名はアントニオさん。ただし「アントニーノと呼んでくれ」というので聞けば、生まれこそシエナだが、長いこと南部シチリアに住んでいたという。同地では代々祖父と同じ名前を孫に命名するので、区別が容易なよう、「小さな」を意味する縮小語尾である-inoをつけるのだ。

筆者が日本人であることを知ると、「サムラを5年近く愛用しているよ」という。Samuraとは日本製鋼材を用いた包丁のブランドである。プロの料理人だった。

1987年生まれの35歳。ピッツァ職人を振り出しに、さまざまな場所の厨房で働いてきた。「(2022年)夏はトスカーナの高級リゾートホテルで、よく働いたよ」と言う。

さて、肝心のムルティプラは?
「2006年式だけど、手に入れたのは2019年だよ」とアントニーノさんは話す。当時彼は、トリノで働いていたという。「それまで乗っていたルノー・カングーのディーゼルが、(自治体の排気ガス規制で)市内に進入できなくなった。だから中古のムルティプラに乗り換えたんだ」
見ると、彼のムルティプラは、天然ガスとガソリンが併用できる「ナチュラルパワー」と名付けられた仕様である。多くの都市で天然ガス仕様車は、CO2排出量が少ないことから、たとえ古くても排ガス規制の対象外なのだ。


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アントニーノさんのムルティプラは、トリノで手に入れたものである。

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後期型の全長×全幅は4090mm×1870mm。

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天然ガス併用車を示す「ナチュラルパワー」のバッジ上には、シチリアの州章をモダナイズしたステッカーが。


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メーカーによるナチュラルパワー仕様車の透視図。一般的な天然ガス仕様車がラゲッジスペースにタンクを配置しているのに対して、ムルティプラはフロア下に収めている。

参考までに、ヨーロッパで有名な中古車サイト「オートスカウト24」でアントニーノさんと同じ年式のムルティプラ・ナチュラルパワー仕様を検索すると、2022年12月27日現在102台がヒットする。最安こそ走行28万キロメートル超の895ユーロ(約12万円)だが、中心価格帯は4千ユーロ(約57万円)で、なかには7500ユーロ(約106万円)で売られている個体もある。それなりに人気絶版車であることがうかがえる。

家族で「並べる」楽しさ

必要に駆られて購入した13年落ちのムルティプラだが、気がつけば、アントニーノさんの日常生活に欠かせないツールになっていた。それを匂わせるように、リアシートは取り外され、デイパックから子ども用おむつの箱まで満載されている。メーカー値を参照すれば、リアシートを装着した状態でも、倒せば1500リッターの荷室容量が確保される。

もちろん、オリジナル+極上主義の日本在住イタリア車ファンに、この状態は複雑な心境に陥るかもしれない。しかし、こうした徹底的な使い方こそ、常に究極の実用車を目指すフィアットの設計者やデザイナーが想定してきたものであることもたしかだ。

 

ムルティプラで良かった点は? 「イタリア語講師をしている女房と3歳の子どもを前席に乗せて一緒に走れることだな」。たしかに今日このサイズのクルマで前列3人乗りのモデルは見当たらない。料理人の仕事は、一般人のホリデイ・シーズンが稼ぎどきだ。それだけに、妻子と過ごす時間は、他の家族よりも大切である。彼らが3人で前席に乗り、快走する姿が目に浮かぶ。


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車内を拝見。「家族3人で並んで乗れるのが最大の美点」とアントニーノさんは語る。

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後席は取り外され、代わりにあらゆるものが積まれている。生活感満点だ。

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「子ども乗ってます」のステッカーが2枚も貼られているところに、オーナーの子煩悩さがうかがえる。

最後に筆者が「じゃあ、近いうちトスカーナのリゾートに顔を出すよ」と言うと、なんと「数日中に、今度はフランスのレストランで働くために旅立つよ」と教えてくれた。今日は、出発前にイタリアのワインを買い込むため、ショップを訪れていたのだった。

 

車齢17年。オドメーターは26万キロメートルを刻んだ。さすらいの料理人アントニーノさんのムルティプラは、まだまだ走り続ける。

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シエナの量り売りワイン店にて。アントニーノさん(左端)は、このあとフランスへと旅立っていった。




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文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

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トリノ自動車博物館(MAUTO)にて。2022年、常設展に新たに加わった1998年「フィアット・バルケッタ1.8 16V」。エクステリア・デザインは、のちにSUBARUに移籍するアンドレアス・ザパティナスによる。

ミュージアムに突如出現

フィアット・バルケッタ(1994-2005)が「歴史車」になりつつある、というのが今回の話題である。

トリノ自動車博物館(MAUTO)は、イタリアを代表するカーミュージアムのひとつだ。現在の建物は、この地で開催された国家統一100年記念博覧会に合わせ、前年である1960年に開館したものだ。収蔵台数は約200台にのぼり、地元ピエモンテ州、トリノ市、ステランティスそしてイタリア自動車クラブが運営を支えている。
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**MAUTOの外観。現在の建物は1960年落成。堂々たるファサードは、当時のイタリア自動車産業の隆盛をしのぶことができる。

現在の常設インスタレーションは、基本的に2011年のリニューアル・オープン時のものだ。しかし、2022年10月に筆者が同館を訪れたとき、順路の途中で、ある1台に目を吸い寄せられた。従来姿がなかった、オレンジ色の「フィアット・バルケッタ」だ。正確には1998年2月に製造されたフィアット・バルケッタ1.8 16Vである。1.8 16Vで、1998年2月に製造されたものと記されている。

解説板には、こう記されている。「イタリア製。ラインはソフトでダイナミック。そのスピリットは栄光のスポーツカーたちである。内外装ともすべてフィアットの社内チームによる。4気筒1747cc 130ps/6300rpm 200km/h」


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ノーズには、先に車両が登録されているクラブのステッカーと認証番号が貼られている。

博物館のダヴィデ・ロレンツォーネ学芸員に聞いてみると、「2021年にマルコ・ライヒト氏という愛好家から寄贈されたものです」と教えてくれた。レーシングカー/コンセプトカーそして企画展を除き、事実上最も若い、その展示車両は、熱いファンからの贈り物だったのである。
マリエッラ・メンゴッツィ館長によると、コンディションが良く、もちろん実動状態という。「私たちは、(贈られたことを)とても名誉なことに感じています」と語る。

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MAUTOのマリエッラ・メンゴッツィ館長。フェラーリ広報、オランダのヨット製造会社CEOなどを経て、2018年から現職。

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ダッシュボードは、フィアット製他モデルのパーツを巧みに活用しながらも、ネオクラシカルともいえる造型を実現している。

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トランクリッド上にはラゲッジ用ラックが付加されている。

後部に回ると、ラゲッジ用ラックに、3枚のメタル製プレートがある。1枚は「フィアット保存会」、もう1枚は「バルケッタ・クラブ・イタリア保存会」の登録証、そして最後のプレートには、デザインを担当したアンドレアス・ザパティナスと、当時ボディを受託生産した「カロッツェリア・マッジョーラ」のブルーノ・マッジョーラの直筆サインが確認できる。参考までにマッジョーラ社は、第二次大戦前に創業を遡る歴史的企業であったが、バルケッタ生産終了の影響が大きく、2004年に倒産している。

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「フィアット保存会」および「バルケッタ・クラブ・イタリア保存会」の登録証。

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アンドレアス・ザパティナス、ブルーノ・マッジョーラ各氏の直筆サインが確認できる。

フェラーリ以上の人気者?

ところでイタリアでは、製造後30年以上が経過し、かつオリジナル性など一定の要件を満たした四輪車および二輪車は「歴史的関連性証明書(CRS)」の申請が可能である。認定業務にあたっているのは、イタリア自動車クラブ(ACI)、イタリア古典四輪二輪車協会(ASI)、およびそれらの認証を受けたメイク別クラブなどである。CRSに認定されると、イベントへの往復・参加以外は運転できなくなるが、代わりに各種優遇措置が適用される。自動車税は通常年額数百ユーロを要するところが、ひと桁少ない数十ユーロに減免される。保険も7割程度安くなり、100~200ユーロ台(車両保険含まず)になる。

実はこのCRS制度、30年が経過していない製造開始後20〜29年の車両、いわゆるヤングタイマーにも同様の道が開かれている。ただし、こちらは車種・仕様が限定されていて、指定リストにあるものでないと申請できない。

この“飛び級”ともいえる枠のなかに、フィアット・バルケッタもしっかり入っている。1995年から2003年までに生産された16バルブ仕様(トリノ自動車博物館の車両も、これに該当する)、および2001年から2003年までに生産された「ナクソス」という仕様である。ヒストリックカー1年生といったところだ。

ところが、1年生と呼ぶには貫禄がありすぎるシーンを、博物館のフィアット・バルケッタで目のあたりにした。子どもたちに絶大な人気があるのだ。クルマに駆け寄ってポーズをとる子を、カメラに収めるお父さんもいる。筆者が確認したかぎり、歴史順に並んだ車両たちのなかでひとつ前に展示されている「フェラーリ365GT4 2+2」より、明らかに人気者だ。

 

バルケッタのメカニカル・コンポーネンツは「フィアット・プント」のものだ。普及版小型車をベースにしながら、スーパースポーツカーと肩を並べられるスタイリッシュなモデルを造るのは、かつてフィアットの真骨頂であった。価格が手頃かつ、十分個性的なイタリアン・ラナバウトが、再び現れないものだろうか。そうした期待を胸に抱きながら、ポー川沿いのミュージアムを後にした。

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バルケッタとともに記念撮影に興じる父子。


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参考までに、これは「バルケッタ・クラブ・イタリア」のミーティング風景。トリノのフィアット歴史的工場再開発エリア「リンゴット」で、2015年撮影。
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文・イラスト 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Pininfarina Segno、Akio Lorenzo OYA

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ピニンファリーナがライナップを拡大するインクレスペンの新バージョン「スマート」。

ピニンファリーナといえば、イタリアを代表する自動車デザイン&エンジニアリング企業である。同社が文房具ブランドをプロデュースしていることをご存知だろうか。その名を「ピニンファリーナ・セーニョ」という。それを代表するプロダクトといえば「インクレスペン」、すなわちインクが要らないペンである。合金「イーサーグラフ」でできたチップ(ペン先)が紙との摩擦で酸化し、筆跡を残す。

イーサーグラフとは

イーサーグラフのルーツは鉛筆より古い。それは「シルバーポイント」というものだ。先端に銀などの金属を用いたドローイング材料で、紙の凹凸によって酸化した先端が削られ、筆跡となるものだった。中世・ルネサンス時代の絵画作品に用いられており、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも作品を残している。

ただし、16世紀中盤にイギリスで黒鉛が発見されると、シルバーポイントは鉛筆にその座を譲り渡す。

「イーサーグラフ」は、いわばシルバーポイントの21世紀版といえるものだ。イタリア北部ラヴェンナを本拠とするダヴィデ・ファービ氏が、金職人の技を借りながら完成した合金を用いている。
彼は2017年に「シグネチャー」という名の企業を設立。ピニンファリーナとのコラボレーションのもと、2018年にフランクフルトの文具見本市「ペーパーワールド」で製品を発表した。以来、ピニンファリーナ・セーニョ・ブランドで、意欲的なデザインのバリエーションを展開してきた。

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ピニンファリーナ・イーサーグラフとパオロ・ピニンファリーナ会長。

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ピニンファリーナ・イーサーグラフ「カンビアーノ・クラシック」。


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Cambianoとはトリノ郊外にあるピニンファリーナの本社所在地の市名。

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以下イーサーグラフ・シリーズのバリエーションから。「アエロ」は、航空宇宙素材のアルミニウムを加工。中空デザインが特徴である。ペンスタンドにはコンクリートを使用している。

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「フォーエバー・フィールム」は、ルイージ・トレンティのデザイン。かつてダ・ヴィンチが用いたモティーフを、レーザー焼結技術を駆使して再現している。


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「スペースムーン・ランディング・エディション」。(通常の鉛筆が成分上持ち込み禁止されている)国際宇宙ステーションに搭載されたことを記念するもの。ペンスタンドには、新素材「ピエトラルーチェ」を使用。


このピニンファリーナのイーサーグラフ、幸い筆者は発売直後に試し書きをすることができた。住まいがあるシエナ市内の文房具店でのことである。当時の第一印象は「通常の筆圧では文字が薄い」ことであった。ただし、店頭備え付けの貧弱な試し書き用紙では、正しい評価ができない。加えて、代表的商品である「カンビアーノ・クラシック」は119ユーロと、けっして即決できる値段ではなかった。

普及版の実力は?

いっぽう2022年、その廉価版といえる新製品「スマート」が登場した。

チップは、前述のイーサーグラフと同様の機能をもたらす「グラフェックス」で、これは
黒鉛の粒子を焼結して得られるグラファイト系素材である。軸にはアルマイト処理によりマットに仕上げたアルミニウムが用いられている。

個性的な形状のケースと共にリリースされてきた従来のイーサーグラフに対して、スマートのケースは、シルバーの円筒形とシンプルである。

 

 

本体の重さは25グラム。アルミニウム製というスペックを意識しながら手に取ると重量感にやや驚く。参考までに普段筆者が愛用している「カランダッシュ」の万年筆が19g、「ステッドラー」の製図用シャープペンシルは、僅か9グラム(いずれも実測)である。

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「ピニンファリーナ・スマートは、円筒形のケースに入っている。ロゴ色はブルー、ライムグリーン、レッド、チタンの4タイプがある。


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筆者が入手したのはレッド。長さは153mm、直径は9mmである。


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本体重量を計ってみる。カタログ値どおり25グラムだ。

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参考までに、ステッドラーの製図用シャープペンは9グラム。

実際に書いてみる。個人の筆圧、紙質、そして下敷きとなるマテリアルによって異なるが、濃さは鉛筆にすると4H相当といったところだろうか。通常の筆記具と異なり、芯やペン先のクッション性が無いのは、遠い昔使ったことがある謄写版(ガリ版)の鉄筆に似ている。

ふわふわしたソファ上でコピー用紙に記しても、とりあえず読める文字は書ける。取材用のメモ帳にも書ける。ただし、それなりの筆圧は常に必要だから、長文を書くときの疲れの少なさという点では、やはり従来の筆記具に軍配が上がる。


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コピー用紙に可能な限り同じ筆圧で記してみる。これは机の上。


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デスクマットの上。

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弾力があるソファの座面上。


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取材時を想定し、リング付き手帳を左手で支えながら、右手に持ったピニンファリーナ・スマートで記してみる。書くことは可能だが、その後の判読に目を凝らす必要がある。

次にイラストレーションを試し描きしてみた。図Aは薄いスケッチ用紙(1平方メートルあたり55g)である。図Bは、いわゆるキャンソン紙である。後者はより厚く(1平方メートルあたり160グラム)、デッサン用に多用される紙で、前者より表面が荒めだ。したがって、より濃い筆跡が可能かと思った。だが、結果にそれほど顕著な違いはない。筆者の技量もあろうが、タッチもそれほど差異は表現できない。

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図A:薄いスケッチ用紙に描いてみる。


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図B:キャンソン紙。より濃く、かつ紙の風合いが出るかと思ったが、顕著な違いはみられない。

より多くの人々が評価するために

そうしたなかで、ピニンファリーナ・スマートの美点とは何か? 最大のセリングポイントである「インクが必要ない」以外を考えてみる。

その答えは「手も紙も汚れない」ということだろう。鉛筆やシャープペンシルでイラストの下描きをしていると、紙と当たる手の部分が汚れるうえ、紙も汚れてくるものだが、それがほぼない(逆にいえば、鉛筆の跡をこすって、ぼかす効果は得られない)。

もうひとつは「布を汚さない」ことだ。筆者は、水性ボールペンのキャップ締めを忘れたままジャッケットの内ポケットに入れ、インクのシミを作ってしまったことが何度もある。カバンのポケットにボールペンを仕舞うとき付けてしまったインクは、これまた取れにくい。
寝室もしかり。筆者は原稿のアイディアをいつでも書きとめられるよう、ベッド横にボールペンを置いているのだが、やはり同様にシーツに汚れを残してしまうことがあった。
ピニンファリーナ・スマートは、それらを一気に解決してくれる。実際、筆者はもっぱらベッドサイドで使っている。

すでに日本の通販サイトでは、イーサーグラフを使用した高級モデルが数々みられる。
恐らく近い将来は、今回紹介したスマートもお目見えすることだろう。いずれにせよ“インクがいらないペン”を、多くの人が以前より手頃な価格で手に入れて、そのメリット・デメリットを評価できるようになれば、次期製品に向けた改良にとって有用だ。

ふと不安になったのはこのスマート、「高級バージョン同様、先端のチップは将来交換できるのか?」ということだった。例の紙製パッケージにはReplaceable tipと記されている。「もしや箱は高級バージョンと共通で、入門用のこちらは一体成型になっていて、取り外しできないのでは?」などと疑いをもってしまったのだ。ところがある日、気合を入れてエイヤっと捻ってみると、たしかに外れた。軸からチップへの、クルマでいうところのフラッシュサーフェス(面一)化があまりに見事だったのだ。いやはや、ピニンファリーナに問い合わせて赤っ恥をかくところだった。


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外箱には、交換可能チップの旨が記されているのだが…。


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ようやくチップが外せた! なお、通常のボールペンのような「◯メートル」といった使用可能距離の目安は記されていない。


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ピニンファリーナ・スマートは、インクレスペン普及の発展に貢献するか。

ピニンファリーナ・スマートは6wheels LIFE楽天市場店よりお買い求めいただけます。

楽天市場
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文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

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ノールオート(イタリア読みではノラウト)のカンピ・ビセンツィオ店。1年ぶりに覗いてみた。


フランス系チェーン系カー用品店で、日本ではオンラインストアとして知られる「ノールオート」。筆者は2021年8月の本欄で「昼休みも閉めません! カー用品チェーンが(ついに)やってきた!」として紹介した。早いものであれから1年。新たな発見は?と再訪してみたのが、今回のリポートである。

イタリアにおける2022年8月現在のノールオート店舗数は、2022年8月現在も39と現状維持だ。新型コロナウィルス対策の営業規制が撤廃されたとはいえ、消費動向の先行き不透明な環境下では、順当な経営判断だろう。そもそも、それに匹敵する業態・規模のチェーン系カー用品店が一般的でないイタリアで、その独自性は揺るぎない。

もちろんノールオートのイタリア法人は、引き続き新規出店の可能性を模索中だ。公式サイトには「人口10万人以上を擁する市街、または15〜20km以内に人口11万人を超える地区をもつ、交通量が多い道路沿いの商業用不動産を探している」旨が記されている。
残念ながら、人口5万人級の我が街シエナに、今すぐノールオートがやってくることはなさそうだ。

芳香剤 「バンクシー」から「お役立ち」まで

ということで今回も前回同様、筆者が住むシエナから70キロメートル以上離れたフィレンツェ郊外カンピ・ビセンツィオの店を覗くことにした。到着したのは朝10時前。8時30分開店なので、整備ブースからは活気ある作業音が聞こえてくるが、ショップは平日だったため、それほど混んでいない。

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店内。左側の棚では季節柄、各種サンシェードが売られている。目玉価格の3.59ユーロ(約490円)は「バットマン」柄の側面窓用のみだった。


まずカー用品店といえば、芳香剤である。今回見つけたのは「バンクシーのグラフィティ・アート」をプリントしたペーパーフレグランスだ。ルームミラーにかけて使う。パッケージにはイタリア製で12種類のデザインがあることが記されている。イタリアでこのジャンルは、日本でも一部通販サイトで「リトルツリー」として販売されている「アルブル・マジーク」が、最強ともいえるシェアを誇っている。大きな駐車場を見渡せば、かなりの確率で、車内に木の形をした芳香剤がぶら下がっている。そうしたなかで、「俺は違うぜ」を示すのに、バンクシー柄は良い選択だろう。

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バンクシーのグラフィティ・アートをプリントしたペーパーフレグランス。2.99ユーロ(約410円)。


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参考までに。これがイタリアのペーパーフレグランス業界で圧倒的知名度と普及率を誇る「アルブル・マジーク」。


芳香剤といえば、このような新製品も。ユーモラスな形状をしているが、それだけでない。日本でも一部スーパーで見かけるコインロック式ショッピングカートを使う人の便宜を図っている。買い物に行ったとき、その都度小銭を探すべく財布をじゃらじゃらかき回すのは面倒。そこで、必要なときは、芳香剤にマグネットでくっついているトークン(硬貨の代わりを果たすメダル)を外して使える。

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「ジーノ」と名付けられたフレグランスは、ショッピングカートに使えるトークンのホルダーも兼ねている。6.95ユーロ(約950円)。

漂うプチ・フランス感

 

ノールオートのオリジナル・トーチ、つまり懐中電灯類は、いずれもスタイリッシュだ。差し色として使われているCIカラーのブルーは、イタリアで一般的に好まれる青より落ち着きが漂う。

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ノールオートのオリジナル・トーチ類。


しかし、それ以上にフランス企業らしさを感じるのは、ブレンボのブレーキ・フルードと並んで、LHM、すなわちシトロエンのハイドロ・ニューマチック系のオイルが置かれていることだ。念のため店員さんに「シトロエンに使えますね」と聞くと、そのとおりと頷いた。フランスではカー用品店だけでなく大きなスーパーマーケットでもLHMが販売されていて驚くが、イタリアではその頻度は極めて低い。それだけに、このような地方のノールオートにも常備されているのは、ある意味画期的だ。

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ブレンボ製ブレーキフルードのコーナーで。一番右がLHM。

同様にフランス系を感じさせるのは、実は「ウィンドーウォッシャー液」である。
かつてフランスで初めてウォッシャー液を補充して噴射したとき、車内まで到達する良い香りに驚いた。
イタリアのノールオートに並んでいるウォッシャー液は、どうやらフランス本国のノールオートで扱われている商品とは異なるブランドだ。だが「オレンジ」「レモン」そして「松」と、香りのバリエーションが豊富である。これならフランス帰りに、もう1ボトル余計に買って帰らなくてよい。

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ウィンドーウォッシャー液の数々。「オレンジ」や「レモン」の香りが並ぶ。


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ブルーは松の香り。ちなみに、ほぼ全商品に虫取り効果が謳われているのは、高速走行すると小さな羽虫が付着してしまうヨーロッパならではだ。

光る新&珍アイディア

アイディア商品もあった。「セーフ(Saphe)」は、スマートフォンアプリ連携型のスピード取締機アラームである。一般的なレーダー探知機とは異なり、本体に取締機の電波を受信する機能は無い。スマートフォンで受信したデータベースのGPS位置情報をもとにしている。別の見方をすれば、日本で「GPS搭載モデル」として販売されているものから、電波受信機能を省いて小型化したものといえる。本体はスマートフォン・アプリとブルートゥース接続して使用する。データベースは全ヨーロッパの取締機10万基をカバーしているが、サブスクリプションの類は永久に不要だ。

その1機種「セーフ・ワン・プラス」は、重量僅か24グラムで、バッテリーは約2年交換不要という。本体には、ユーザー自身が新たに発見したレーダーの位置だけでなく、事故発生場所やブラインドコーナーなど危険区間をデータセンターに通報・送信できるボタンが備えられている。いわばドライバー同士で“助け合い”ができるというわけだ。

 

姉妹品の「セーフMC」は、二輪車用ヘルメットの内側に貼り付ける方式だ。こちらには送信ボタンは無い。
調べてみると、セーフは2015年にデンマークで創業、現在の従業員は25名というスタートアップ企業である。不要な機能を極限まで削ぎ落とし、簡単かつシンプルなデザインにしたところに好感がもてる。なお、セーフの商品は通販でも購入可能だが、ノールオートのチェーンは、数少ないリアル店舗として同社の商品を扱っている。

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左は二輪車用の「セーフMC」で31.95ユーロ(約4400円)、右が四輪車用の「セーフ・ワン・プラス」で39.95ユーロ(約5500円)。




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ハイテクとは対極に位置するものの、アイディア商品も目にすることができた。イタリアの有名カー用品ブランド「マフラ」による車内用洗剤である。スプレーで洗剤を噴射したあと、真上に付いたブラシで、そのままシートをゴシゴシできる。
メーカーによる説明動画によれば、「バケツやクロス、スポンジなど不要。これ一本でオーケー」が売りである。


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「マフラ」社の「フラッシュ」は、ブラシが付いた車内用洗浄剤。「アルカンターラにも使用可」と記されている。

それ、何だかわかってます?

探訪はまだまだ続く。ある商品棚の片隅に、あのMOMO DESIGNのダッシュボード・トレイを見つけた。この種のものからすると格段にスタイリッシュで質感も高いが、包装のヤレ方からして、売れ残ってしまったのだろう。価格も通常価格9.95ユーロ(約1400円)のところ、5.99ユーロ(約820円)までディスカウントされている。

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MOMO DESIGNのダッシュボード・トレイ。

筆者が個人的に好感を抱いた商品は汎用ホイールカバー(ホイールキャップ)のコーナーにあった。ずばり「WRC(世界ラリー選手権)」ブランドである。無く子も黙るラリーの最高峰と“鉄チン”用カバーのミスマッチが素晴らしい。それも在庫あり商品が13インチ用というのが可愛いではないか。

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「WRC」ホイールカバーは4枚で24.95ユーロ(約3400円)。

ミスマッチといえば、WRC以上に、とんでもないものが筆者の目に飛び込んだ。シフトノブ用カバーの横に掛かっていたキーホルダーだ。どう見ても「日本の初心者マーク」である。ただし、パッケージにその説明はまったく無い。イタリア北部フェラーラの企業が製造する「S-Racing」という商品シリーズのひとつだ。昔、北米の日本料理店で、おしながきに位牌を使っていたという話には及ばないが、「初心者」と「レーシング」という、ちがうってば感にしばらく笑いが止まらなくなった筆者であった。

 

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日本で何のサインか知って購入するイタリア人ユーザーは、限りなく少ないだろう。6.95ユーロのところ、4.99ユーロ(約680円)にて特売中。

 



前回のノルオート店舗訪問レポートはこちらからご覧ください。


大矢アキオのアウトモービレ! カンタービレ! —伊仏を中心に路上クルマ風景をつれづれなるままに— 第24回昼休みも閉めません! カー用品チェーンが(ついに)やってきた!”
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witten by Akio Lorenzo OYA
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文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 大矢麻里 Mari OYA/Akio Lorenzo OYA

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2022年5月28日、イタリア中部メンサネッロをベースに開催された「イタリアン・ルノー4ミーティング」で。

アイルランド組み立て仕様も

本欄第19回に登場したイタリア中部ポッジボンシのフランス車専門パーツショップ「デ・マルコ・パーツ」の店主、マッシモ・デ・マルコさんから「今年もやるから、遊びにおいでよ」と誘いがあった。
「今年も」とは、ルノー4(キャトル。イタリア語ではクアトロ)のミーティングである。正式名称は「イタリアン・ルノー4フェスティバル」という。

第1回は2021年9月、ルノー4誕生60周年に合わせて催され、65名のファンが参集した。
第2回である今回もマッシモさんがベースに選んだのは、前回に引き続き「メンサネッロ荘園」だった。ワイン用ブドウやオリーブの畑などに囲まれ、東京ドームの約64倍に相当する300ヘクタールを誇るホテル&レストランだ。

なお、かつてアルファ・ロメオ工場製が存在した事実などイタリアとルノー4の深い関係については、これも本欄第19回を参照いただこう。

イベントは参加予約こそ必要だが、どこから合流しても、どこで離脱しても自由という、ゆるいプログラムである。初日である5月20日金曜日は、18時にデ・マルコ・パーツ店頭に集合。19時から走行会に出発し、そのまま希望者は郊外のリストランテで夕食をとった。

翌日土曜の午前中は、一帯の自由ウォーキング散策が組まれた。
その日の午後、筆者が合流すると、メンサネッロ荘園の庭には、色とりどりのキャトルが、まるでマーブルチョコレートを撒いたかのようにパークしていた。スタイルもノーマル、ドレスアップ系、フルゴネット(バン)、そしてローダウンとさまざまである。
ファンも、キャトル一筋の人がいるかと思えば、「フォルクスワーゲン・ビートル」「フィアット・トポリーノ」などとともに、デザインが可愛いクルマのコレクションの1台として愛好している人もいる。

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フィレンツェ郊外からやってきたチヴァさんの愛車。ヴィンティッジ風グリルとアルミホイールが自慢だ。


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昨年に続いて中部マルケ州から参加したダニエレさん。「さまざまな旧車を所有してきたが、最終的に手元に残したのはキャトルだけだ」と語る。

イタリア人以外の参加者もみられた。あるオーストリア人オーナーは「今も(ルノー4を)通勤用に毎日使っていますよ」と誇らしげに教えてくれた。
遠来賞は、イギリス南部コーンウォールを発ち、プリマスからドーバー海峡を越え、片道1750キロメートルをかけて到着したブライアンさんであった。リタイア前は軍関係のエンジニアだったという彼は、「休息日1日も含めて5日間かかりました」という。「基本的に宿泊はキャンプです」。実際、後席から荷室にかけて旅道具が満載されている。「女房は暑がりなので、家に残してきました」と笑った。
右ハンドル仕様なので聞けば「これはアイルランド組み立てです」という。キャトルは1962年からダブリンでノックダウンが開始され、その後ウェクスフォードに移って1984年まで生産が行われていたのだ。


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英国から1750キロメートルを運転してきたブライアンさん。愛車はアイルランドで組み立ての1978年式右ハンドルだ。


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来場者のTシャツからもキャトル愛がひしひしと感じられる。ピサ在住のフェデリコさん&アリーチェさんもこの通り。


キャラクターにドンピシャ

夕方からは、マッシモさんの司会でアトラクションが開始された。
最初は「パーツ当てクイズ」である。10個の箱には、それぞれキャトルの部品が隠されている。参加者は手を突っ込んで、それが何かを口頭で解答する。
制限時間が決まっているので、すべての箱に手を差し入れるには1個あたり手探りできる秒数が限られる。中に入った部品は穴から覗き見できないよう、藁(わら)にまみれている。挑戦者のひとり、ダニエレさんは「思った以上に難しかった!」と感想をもらした。会場の熱気につられてはしゃぐ犬も、彼らの集中力を低下させる。それでも優勝者は10個中9個をずばり言い当てた。


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10個並んだ箱に次々と手を突っ込み、制限時間内に何の部品か当てる。熱烈キャトル・ファンといえども、それなりに難しかったようだ。

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答え合わせタイム。オーガナイザーのマッシモさんがウィンドーウォッシャー用レバーを掲げる。

続いて参加者たちは屋外に移動した。事前に「スターターを使ったゲーム」と聞いていた筆者は、船外機のようなプルスターターや、二輪車のキックスターターでエンジン始動を競うのかと勝手に考えていた。だが実際は、なんとキャトルのスターターモーターを、砲丸投げの要領でできるだけ遠くまで飛ばして距離を競うゲームだった。重さ約5キログラム。ちょっとしたダンベルと同じだ。方向を間違えてギャラリーのほうに投げてしまうチャレンジャーあり、いかにも剛力そうな男性が“ちょろい”距離しか飛ばせなかったりで、歓声が絶え間なく続いた。


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「スターターモーター投げ」。サンダルを脱いで挑戦したこの女子は、それなりに好成績を示した。

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アトラクションの後、ふたたび近郊のツーリングに出発する参加者たち。


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キャトルのメカニカル・コンポーネンツを流用しながら、より近代的な成り立ちをもつ「6」も参加した。わざと水たまりに入り、“泥んこ遊び”に興じる参加車も。


最終日である日曜日午前は走行会やドローンを使った記念撮影のあと、メンサネッロでのランチをもってフィナーレとした。3日間の参加台数は82台。参加者は約350人を数えた。

マッシモさんの企画は、シンプルでも楽しいキャトルのキャラクターにぴったりだった。それはメーカー後援イベントのように大掛かりなセットを組んだり大物ゲストを呼んだりしなくても、十分に楽しめることを示している。

ちなみに数日後、例の英国人ブライアンさんの携帯電話に連絡してみると、「まだイタリアにいますよ」と答えが返ってきた。キャトル仲間の家を訪問しては交流を楽しんでいるのだという。
2022年で生産終了後30年。今なおこのベーシックカーは、さまざまな人々に喜びをもたらしている。

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フルゴネット仕様が、お馴染みのロールを演じながらカーブを疾走する。

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自分なりの個性的なドレスアップを施した参加車も少なくなかった。
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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