• プロフィール2に写真を追加してください。
  • プロフィール3に写真を追加してください。
独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
witten by Akio Lorenzo OYA
世界中
うんうんする
11


文と写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

 

5001.jpg
202410月、ボローニャの「アウトモト・デポカ」ショーで。アジップ系ガソリンスタンド詰め所のレプリカを発見。手前のクルマはアルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリント・スペチアーレ。

 

■ギャレー備品をクルマ好きテイストに

 欧州のヒストリックカー・イベントを渡り歩いていると、自動車以外にもそそられるものがあり、思わず足を止めてしまうことが多々ある。今回は、その中から2つを紹介しよう。

 

最初は、フランス・パリのヒストリックカー・ショー「レトロモビル2024」で発見したものだ。店名を「カストミーズ・エア」という。フランス北東部マルヌ県の町タイシーを本拠としている。「エア」の名前がイメージさせるとおり、彼らが得意としているのは、民間航空機のギャレー用アルミ製搬入カート(ミールカート)のモディファイである。日本の航空会社でもときおり放出している中古品と異なるのは、自動車好きに焦点を合わせてカスタマイズしていることだ。自動車ブランドやF1チームを想起させるもの、自動車が登場する映画をイメージしたもの、と数々ある。

 

同様にギャレーで使われる小さなコンテナは、上部にクッションを追加してスツールにモディファイされている。カートは1890ユーロ(308千円)、コンテナは590ユーロ(96千円)である。個体によっては、オランダ「トランサヴィア」など、現役時代に使われていた航空会社名が残っている。各部に残る擦りキズ、凹みそして汚れは、リモワのアルミ製スーツケース同様、これまでアイテムがたどってきた旅にイメージを馳せるため、と受け取るのが正しいだろう。

 

5002.jpg
「カストミーズ・エア」は飛行機のギャレー用搬入カートやコンテナのカスタマイズを専門としている。

5003.jpg
2024年パリ・レトロモビルで。多くの来場者が足をとめ、興味深げに観察していた。

 

■道端給油所はいかが?

もうひとつは、ボローニャで毎年秋に開催される「アウトモト・デポカ」で、2023年・2024年と出展され、注目を浴びていたものだ。ずばり「ガソリンスタンド」である。

 

従来から、古い給油ポンプや石油ブランドの看板は、長年コレクターズアイテムとして愛好家の間で取引されてきた。いっぽう、そこでの展示物は、かつて欧州各地の道端に存在した給油所の、スタッフ詰め所だ。

 

手掛けているのはアーサー・ピスカニック氏と、彼がオーストリアで主宰する「アルテタンケ(古いスタンド)」である。1967年生まれの彼は、25年間古いクルマを手掛けるうち、約10年前にこのアイディアを実行に移した。欧州各地で、使わなくなったスタンド詰め所を発掘して販売している。2023年のアウトモトデポカに展示した建屋は「実際にFINA(フィーナ)の給油所として、オランダで使われていたものです」とアーサー氏は説明する。

 

5004.jpg
2023年ボローニャ「アウトモト・デポカ」で。まずはアジップ・カラーに塗装された、この1958年フィアット682Nタンクローリーが目に飛び込んだ。イタリア「マラッツァート財団」のコレクションである。

5005.jpg
その脇には、アーサー・ピスカニック氏と彼の屋外ブースが。

 

レストアのかたわらで、1930年代から70年代までのレプリカ建屋もプロデュースしている。1930年代は角形、50-70年代はオーバル型が基本だ。冒頭写真のアジップのスタンドは、彼が手掛けたレプリカの一例である。周辺に同じくアンティークの給油機やオイル缶などさまざまなアクセサリーを散りばめることで、さらに雰囲気を盛り上げることができる。そうしたセットは、各地の博物館やイベントなどに販売もしくはレンタルされ、展示車や参加車の引き立て役として活用されているという。

 

06 bosch.jpg
左はFINAのオイル缶。往年の同社によるモットー「tanken, fahren, loben(給油して、運転して絶賛)」が印刷されている。右はボッシュ製スパークプラグの販売用ラック。

 

■黒電話に「あの灰皿」も

今回紹介したものに、なぜ心動かされるのかを自分なりに分析してみた。航空機用カートやコンテナに関していえば、飛行機が高価な移動手段だった頃への郷愁を否定することはできない。だが同時に、さまざまなユニット機器が面一に収まるものに惹かれた時代への懐旧とも筆者は分析する。旅客機内のギャレーに整然と収まるカートやコンテナは、ラックにマウントされたコンポーネントステレオ、初期のデジタルシンセサイザーが全盛だった1970年代を彷彿とさせるのである。

 

同様にアーサー氏のガソリンスタンドも70年代にタイムスリップさせてくれる。日本の給油所のサービスルームは詰め所型よりもう少し大きかった。しかし独特の雰囲気があったものだ。薄っぺらい座布団が敷かれたパイプ椅子の向かいにレースのカバーがかかったソファ。その傍らでは8トラックの演歌テープがプロドライバー向けに売られていた。マガジンラックには提携している自動車販売店が置いていった、初代トヨペット・コロナ・マークⅡのカタログがしわくちゃになって挿してあった。そしてテーブル上には、当時カーライフ産業のおきまりであった、タイヤをかたどった灰皿が置かれていた。いずれもたわいものない事象であるが、今のスタンドより大人の香りがして、いつか自分も運転免許を取得したら、客になりたいと思ったものだ。

 

筆者が心ときめいたのと同じノスタルジーを、ここ欧州の人々も胸に秘めていたのかと思うと、妙に嬉しくなるのである。それを証明するように、アーサー氏のスタンド内の机には、しっかりとタイヤ型灰皿が置いてあったのだった。

 

Customi’s air

https://www.customis-air.fr/

Alte Tanke

https://www.alte-tanke.com/

 

5007.jpg
オランダで発見したというFINAのスタンド詰め所。

5008.jpg
詰め所の内部。黒電話、オリジナル道路地図、タイヤ型灰皿といった小道具も情緒あふれる。


この記事へのトラックバックURL
https://carcle.jp/TrackBack.ashx?TR=UxUwmeQKyUPpXhUWCQXwJw%3d%3d
うんうんする
11


「うんうん」した人
コメントの投稿
お名前

URL

メール(※公開されません。コメントに返信があった時に通知します。)

パスワード(※コメントを修正・削除する時に必要です)

このコメントの公開レベル
答え=
※セッションが切れて計算結果が違うことがあります。その際は再度計算してご入力ください。



プロフィール
Akio Lorenzo OYA
Akio Lorenzo OYA
大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
新着記事
記事検索
検索語句
アーカイブ
その他機能
RSS 2.0 Feed
ゲストブック
ブラウザのお気に入りに追加

 
ブログ購読
このブログが更新されたらメールが届きます。
メールアドレスを入力してください。