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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
witten by Akio Lorenzo OYA
世界中
うんうんする
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文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

日本では当たり前でもイタリアに無いものは多々ある。たとえば日本のチェーン系コンビニエンス・ストアのような業態は、基本的に存在しない。取り扱い品目ごとの細かな規則やタバコ商などの高い参入条件、24時間営業を困難にする労働関連法、そして強力な労働組合、と世界的チェーンが参入をためらう理由が数々あるからだ。
それはともかく、イタリア自動車生活において、実は珍しいものといえば「カー用品チェーン」である。

ありそうで無かった

日本では至極当たり前の「オートバックス」「イエローハット」のようなカー用品販売と整備双方のサービスを提供するチェーン店が、イタリアでは長いこと存在しなかったのだ。
かわりに、カー用品は地元の個人が経営する小さな専門店に頼るのが一般的だった。整備もオイル交換を含む機関系、タイヤ、電装、民間車検専門…と細分化されていて、必要に応じてそれぞれの施設に行く必要があった。近年ではめっきり見なくなったが「キャブレター専門」という店もあったほどだ。

だから隣国フランスにクルマで行って、郊外ショッピングセンターの一角に、日本に似たカー用品チェーンを頻繁に発見するたび、羨ましかったものだ。

それでもイタリアでカー用品チェーンは、皆無だったわけではない。
日本ではオンラインストアとして知られる「ノルオート(Norauto :イタリアではノラウトと発音する)」はその先駆けだった。フランスで1970年に創業した同社は、1991年にイタリアに初進出。ただし当初は、北部が中心だった。
2021年現在、イタリアにおける店舗数は39である。上陸後20年でその出店ペースとは、日本のチェーン店からするとけっして早い部類ではない。だが、これまたイタリアの気の遠くなるような業種別規制を乗り越えてのことと考えれば、奮闘と評価すべきだろう。

そもそも昼休み無し、日曜日こそ午後休みだが年中無休ということ自体、実はイタリアの自動車サービス業界で極めて画期的なことだ。労働組合との丹念な交渉がしのばれる。

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フィレンツェ郊外カンピ・ビセンツィオにあるノルオート。イタリアでは34番目の店である。


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来客用エントランス。イタリアの自動車整備業界で平日昼休みがないのは、実は画期的なことである。

実は珍しいこと、いろいろ

筆者が住むイタリア中部トスカーナにようやくノルオートが開店したのは2017年4月、フィレンツェ郊外のカンピ・ビセンツィオだった。イタリア国内では34番目の店という。シエナの我が家からは約70kmのところにある。

地元ニュースサイト「ピアナノティーツィエ」2017年2月7日号を参照すると、「開店にあたり15人を新規採用」と伝えている。雇用情勢が慢性的に厳しいイタリアで、カー用品チェーンは、地元労働市場にも貢献しているのである。
参考までにノルオートの2021年資料によれば、外国人採用にも力を入れており、すでにスタッフの20%はEU域外の国籍という。その傍らで採用にあたっては、少なくとも2回の面接を実施し、年間10,000時間の研修を提供していると胸を張る。

筆者がこの店を最初に利用したのは2019年で、エアコンのガスチャージが目的だった。
ウェブで申し込めて、その金額は39.95ユーロ(約5千円)ぽっきり。明朗料金だ。なぜそんなことを書くのかといえば、従来イタリアでは、この手の簡単な作業でも電話か店頭での予約が必要なうえ、言い値の店が少なくなかった。クレジットカード払いもだめで、現金は作業後メカニックのおじさんがツナギのポケットに突っ込む、ということがたびたびあったのだ。

そして2021年7月、今度はメーカー指定の定期点検を頼むことにした。従来筆者はディーラーの併設サービス工場でそれを受けてきたのだが、ノルオートでも実施していることを知ったのだ。なにより料金がカーディーラーだと、円換算で1回4万円近くを要するところ、約2万4千円に押さえられるのが嬉しい。
ウェブ予約時にカードで前払いの必要がある。だが、陸運局のデータベースが広く民間にも共有されていることもあり、ナンバープレート番号を入力するだけで交換部品・オイル代を含んだ見積もり金額が即座に表示される。これは便利だ。

当日筆者の予約は午前11時。所要時間は約4時間という。すぐ隣にあるショッピングモールで半日を過ごすことにした。
イタリアの従来型自動車販売店およびサービス工場は、郊外の寂しいところに立地しているのが大半だ。工場によっては有料の代車を借りないと、身動きがとれなくなる。いっぽうで、こうした近代的なカー用品チェーンの多くは、時間を潰せる大規模商業施設の近くにあるのがありがたい。
イタリアはちょうど夏のバーゲン時期。昼食を食べてモール内の店を冷やかしていたら、あっという間に半日が過ぎてしまった。おかげで作業完了が予定より1時間半ほど遅れても、たいして苦にならなかった。

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整備ブース入口脇にある立て看板のように、明朗な料金体系もイタリアでは革新的といえる。

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販売コーナーの様子。夏休み時期ということで、サンシェードやパラソルが目立つ。

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あのピニンファリーナ・ブランドが付いたカーケア用品も。

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ドライブレコーダーの部。その店頭取り扱いスタートと品揃えの充実は、イタリア国内においてノルオートが早かった。


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子ども用の乗り物。数は少ないが厳選していることがわかる。

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昨今都市モビリティとして人気の電動キックボードも、数年前から置かれるようになった。


鍵は巧みなローカライズ

と、ここまでは万事が順調に進んだわけだが、ハプニングが待っていた。
クルマを引き取りに行ってみると、いっこうにキーを返してくれない。「何が起きたのか」と聞けば、筆者がウェブ申込および電子決済をしたデータが本部から届いておらず、店頭申込価格で処理してしまったのだという。そのため、すべて手入力でレジ打ちし直していたのだ。
こうした本部・店舗間の連携不備によるドタバタは、業種を問わずイタリアでは、ときおり遭遇することである。ここは腹をくくって、店内を見学して待つことにした。

 

売り場は天井が高く、開放感がある。
ステアリングやペダルに掛けてロックする物理的な盗難防止装置は、ハイテクデバイスが登場する中でも根強い人気があるらしく多数取り揃えられている。いずれも派手なカラリングなのは、犯人がその存在に気づかぬままガラスを割ってしまうのを未然に防いでくれる。残念なことだが、年間の車両盗難数が日本の10倍以上に達するイタリアを物語っている。

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ステアリングやペダルの物理的ロック盗難防止装置だけでも、このようにラインナップが。大半はノルオートのオリジナルだ。

イタリアにおいて2018年の法律で義務付けられた「乳幼児置き忘れ防止システム」もある。
ベビーシート下に敷くタイプ、ベルトに装着するタイプ双方だが、いずれも子どもを車内に忘れそうになると、ブルートゥースを介して保護者のスマホアプリのアラームが作動する仕組みだ。

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乳幼児の車内置き忘れ防止装置。チャイルドシート下に敷くタイプや、ベルトに装着して使うもの双方がある。

次はカーオーディオ。ここのところ家電・エレクトロニクス市場で退潮著しい日本ブランドだが、この分野だけは、幸いなことにいまだ健闘している。

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オーディオは唯一残された日本ブランドの牙城。


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欧州における簡易カーナビの雄「トムトム」がリリースした2輪用ナビ。車両から離れるときは着脱が可能だ。

休憩スペースを覗くと、イタリア屈指のコーヒー・ブランド「ラヴァッツァ」の自動販売機が置かれていた。エスプレッソやカプチーノはじめコーヒーが6タイプ選択できるうえ、砂糖の量も6段階調節できるのは、やはりこの国である。

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休憩コーナーにて。ラヴァッツァのコーヒー販売機(左)も。


ドアミラーに被せるイタリア国旗色カバーは、もしかしたら時節柄サッカー「ユーロ2020」商品の売れ残りかもしれない。

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ミラーに被せるイタリア国旗色のカバー。

しかしながら最も楽しいのはシートカバーの部である。木製ビーズやメッシュ製のものが、モダンな店内の雰囲気や他製品と妙なコントラストを醸し出していた。
思えば筆者の少年時代、昭和ひと桁生まれの亡父が愛用していて、いつも「カッコわるいからやめてほしい」と願っていたものだ。
ただしイタリアの若者の間で、こうしたレトロ系クッションはけっして評判が悪くない。ある知人によれば、その快適さから女子受けもけっして悪くないようだ。価格も手頃で、ちょっとした「おもてなしカーグッズ」なのである。したがって、ノルオートで売っているのもけっして不思議ではない。

革新的な店に、お国柄あふれるさまざまなアイテム。この巧みなローカライズが、ヨーロッパ版カー用品チェーンがイタリアで成功している秘密に違いない。

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懐かしい木製ビーズシートカバー。価格も約11.95ユーロ(約1600円)と、意外にお手頃。

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こちらも昭和感あふれるメッシュのシートカバー。さらにお得な9.95ユーロ(約1300円)。
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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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