四谷警察署の四谷2号車が第2自動車警ら隊の応援の為,緊急走行で先現場から程近い四谷3丁目交差点付近に着いた。普通,所轄や自ら隊等広域の車両はまず緊急走行しないが,事案が急であれば逆に関係所属車は全て緊急走行と言う事があり,今回は正に急な現場だった。
ついでに場所柄,何度緊急で応援に行かなければいけなくても,回数は全く関係無い。こうした警視庁の手配態勢は省庁,外国大使館,繁華街がひしめく都心ならではだ。
署員が交差点の北側の北進車線に停められた第2自動車警ら隊の警視206号車に目をやった。自ら隊パトカーの傍らには指導警察官の後輩の巡査部長が立って居た。窓から無線機を掴んだまま交差点付近の指導警察官の表情を確認して居た。合図があれば,警視庁の通信指令に宛て,照会調べ要請や応援の緊急送信をする。
四谷警察署の所轄警察官は自分も,以前,第2自動車警ら隊に勤務して居たのでやり取りの真相が分かった。
周囲には応援要請を聞き付け,刑事部の第2機動捜査隊や他の四谷署員,交番警察官らが徒歩や自転車で駆け付けて居た。第2機動捜査隊の捜査車両の付近に被疑者が立ち尽くし,身体捜検されて居た。
指導警察官が再び交差点付近に目をやったのは,警察官が集まりはじめてからだ。無線があった頃には既にたまたま通り掛かった警察官らが身柄を引き止めて居た様だ。
元自ら隊の署員は若手の巡査長を連れて指導警察官に歩み寄って行った。まだ巡査長は現場経験が浅いので,先輩署員は職質の立ち回りを教えたかった。
「ああやって,歩行者,軽車両のチャリ,車の動きをじぃーと見詰めんだよ。そうすんとよ,ばぁーと言ってみれば漫然とした流れの中で異様な違和感のあるっつー様な奴を引き止めるんだ」
元自ら隊員は指導警察官を眺めさせながら言った。
「実際,声掛ける内,10台10人居てどのくらい見付かるんですか?」
巡査長は訊いた。
「10人中,9人位だろう。しかも全部当たりで」
「後は見過ごさざるを得ないと?」
「そうだ」
先輩署員は頷いた。
「だから,絶対何かあるとふんだら口で声掛けるより,手だ,歩行だ,が先に出る位じゃ無いといけない。機捜はともかく,地域の広域やうちら所轄に声を掛けられるとすれば,本物じゃ無いにしても悪い事をして無い奴なんて一握りも居ない位だよ」
「本物っていち手配(全国手配)とかですか?」
署員は頷いた。
「逆に言えば完璧に法律守るには悪い事も知らなければ出来ないつー事だね。勿論,被疑者に為っちゃいけねーがよ」