今回、用意された100台近い試乗車のうち、マニュアルトランスミッション(MT)を搭載した車は9台でした。
そのうちカーくるが試乗できたMT車は3台。プジョー RCZ-R(6MT)、フィアット パンダ4×4、そしてこのルノー ルーテシア・ゼン 0.9。
昨今、高級車のみならず、ベーシックカーやスポーツカーでさえもMT車はあまり設定されておらず、選択の幅は狭まるばかり。
かつては価格や燃費の面でMTを選択していたドライバーも少なからずいたと思いますが、ツインクラッチを含むATが著しい進化を遂げたことでそれらの利点は失われて久しく、また高性能化した車体を電子制御し、速く・安全に・環境性能にも配慮しながら走らせるには、ドライバーの意志が強く働くMTは自動車メーカーにとっても、もはや厄介者になってしまったのではないかと思えるほど。
事実、このルーテシアにおいても”GT”や”インセンス”などの1.2Lモデルはもとより、最上級のホットモデル”R.S.”でさえ6速のデュアルクラッチATしか設定されていませんでした。
今回、ベーシックグレード”ゼン”に新たに設定された0.9Lターボエンジン+MT。
ファンにとっては貴重な”MTで楽しめるフレンチベーシック”の登場です。
シリーズ中最少となる3気筒0.9Lターボはわずか90psですが”非力なエンジンをMTで自在に操りドライビングを楽しむ”という古典的ですが普遍的な楽しさを期待させます。
エクステリア
上級グレードとはバンパー形状などで違いがありますが、基本のデザインが魅力的なのでまったく見劣りはしません。
5ドアなので実用性も兼ね備えています。ベーシックカーとして日常での使い勝手を考えると非常に有難いです。デザインにこだわるフランス車らしく、リアドアのノブはウィンド後端に目立たぬように配置されてます。
インテリア
非常にシンプルでまさにベーシックグレード!といったところですが、全体的なバランスやデザインは悪くないし、ステアリングやシフトノブといった普段一番触れるところの質感もよくできていました。またシートは思っていたよりコシが強い印象でしたが、サポートも程よく、長距離を乗っても疲れにくそうです。
外観がスタイリッシュなので後部座席にしわ寄せがきているのではないか?と思いましたが、しっかり3人が座れ、ニースペースも余裕がありました。
またトランクは開口部が少し高めですが、日常で使うには十分な広さが確保されています。
エンジン
上級グレードが搭載する直4の1.2Lターボ”H5F”から1気筒を削った直3の0.9Lターボ”H4B”。
今時のダウンサイジングエンジンとしては当たり前かもしれませんが、3気筒を意識するような安っぽいフィーリングは殆ど感じられず、小排気量でも低回転からトルクがそれなりにありますので発進時もそれほど気を遣うことはありません。
ブーストが効いてくる4000回転付近からは明確にトルクの盛り上がりが感じられるセッティング。レブリミットの6000回転付近まで力強さは衰えず、頭打ち感も感じられなかったので、あと500回転回ってくれるともっと楽しいかな。
シフトフィール
ストロークは長めでスポーツカーのようなカチッと感はありませんが、シフトゲートは明確で操作しやすい。
クラッチも軽めでつながりも穏やかなので、特別意識して操作することもありません。
サスペンション
普段使いを重視し柔らかめなので、コーナリングではそれなりにロールはしますが、コシのあるセッティングとボディ剛性がしっかりしていることもあり不安感はありません。良くも悪くも正統派のフレンチベーシックカーといったところでしょうか。
ブレーキに関しても車重が軽いためか必要十分な効きでタッチも自然なフィーリングでした。
スポーツモデルの”手に汗握るエキサイティングなドライビング”とは一味違う楽しみがこの車にはあります。
もちろん、あそこを交換して、ここをチューンナップして…と弄る楽しみも存分にあると思いますが、個人的には、この素の良さを大切にして日常の中でいつでもドライビングを楽しみたい。そう思わせる一台でした。
”魅力的なスタイル”、”日常の使い勝手の良さ”、”リーズナブルな価格設定”とベーシックカーとしてバランスよくまとめられた一台に、”操る楽しみ”というエッセンスを加えて魅力を増したルノー ルーテシア・ゼン0.9。
フランス車の入門用として、また通なマニアの日常の足としても魅力的な一台でした。
ルノー ルーテシア・ゼン(0.9ターボ) 主要諸元
全長×全幅×全高:4,095×1,750×1,445 mm
車両重量:1,130 kg
エンジン種類:ターボチャージャー付直列3気筒DOHC12バルブ
排気量:897 cc
最高出力:66 kw(90 ps)/ 5250 rpm