ルノー・スポールといえば1976年の設立以来、スポーツモデルの開発やF1をはじめとしたモータスポーツに参戦し”走りのルノー”を印象付けてきたブランド。かつてはルノースポール・スパイダーやクリオ ルノー・スポールV6などかなり尖った市販車もあったが、近年ではトゥインゴ、ルーテシア、メガーヌなどハッチバック車を中心にスポーツ性能を極めながらも実用車としての完成度も高いR.S.モデルを送り出し、マニアのみならず一般のユーザーにも広く受け入れられてきた。
そんなルノー・スポールだが、新生A110をひっさげて2017年に復活したスポーツブランド”アルピーヌ”との統合が2021年に発表され、モータースポーツ部門をアルピーヌに一本化することによりルノー・スポールの名は45年の歴史を閉じることとなった。
今回試乗したメガーヌR.S.ウルティムは、R.S.(ルノー・スポール)を冠する最後のモデルとして2023年に世界限定1976台で販売された。
サーキット走行も視野に入れた”シャシーカップ”を採用した『メガーヌR.S. トロフィー』をベースとして主に内外装に専用アイテムを装備したモデルとなっている。
ULTIME マットブラックデカールやブラックルノーロゴ、ブリリアントブラックフロント F1 ブレードなどブラックフィニッシュされた外装アイテム、トロフィーのホイールに比べ1本あたり2kg軽量な19インチホイール「フジライト」の採用、さらにR.S. ULTIME ロゴ入りキッキングプレート、開発ドライバーであるロラン・ウルゴン氏のサイン入りプレート(シリアルナンバー付)など内装アイテムが装備される。ちなみに動力性能などの基本スペックはトロフィーと同様となっている。
ウルティム専用装備としてボディ各所に施されたひし形(ロサンジュ)のブラックデカールがレーシーな雰囲気を盛り上げる。
ちなみにボディカラーは試乗車の”ブラン ナクレ M”の他、”ノワール エトワール M”、”
オランジュ トニック M”、”ジョン シリウス M”の全4色が用意される。
内装は今どきの車らしくデジタルメーター、そしてセンターコンソールに備えた9.3インチの大型ディスプレイが目を引くが、基本的にはルノー伝統?のシンプルなデザインでまとめられている。車両価格659万円という価格を考えると、正直もう少し高級感やスポーティな演出があってもいいのではと思うが、きっとコストはすべて走りの楽しさに注がれているのであろうと理解する。
フロントシートはRECARO製のセミバケットシート。硬質でやや大きめに感じたが、表皮がアルカンターラで滑りにくく、普段使いからスポーツ走行まで幅広く対応できそうだ。またリアシートも同素材で仕上げられている。
メガーヌR.S.ウルティムは、今回のJAIA輸入車試乗会で試乗できたモデルでは唯一の純ガソリンエンジンのスポーツモデル。また、トランスミッションはツインクラッチの6速EDCと6速MTが選べるが、今回の試乗車は6速EDCモデルであった。
スタートボタンを押して目覚めたエンジンから発せられる控えめながら凄みを感じさせるエキゾーストに、運転好きとしてやはり心が躍ります。
1.8Lという比較的小排気量ながらターボパワーで300PSを発揮するハイチューンエンジンは、6速EDCの制御も相まって低回転でも気難しいところはなく、3000回転を超えたあたりからはグイグイパワーが盛り上がってくる。420N・mというトルクも相まって相当パワフルに感じるわけだが、恐怖を感じさせるような凶暴なパワー感ではなく「もしかしたら自分にも手懐けられるんじゃないか…」と車との対峙を楽しめるような懐の深さを感じさせる。
”R.S.ドライブ”と呼ばれる走行モードもセンターコンソールのスイッチやタッチディスプレイから切替できる。「セーブ」「レギュラー」「スポーツ」「レース」の4モードが選べ、シフト制御やアクセル制御などが切り替わるわけだが、ついつい「レース」を選びそのスポーツ性能を試したくなってしまう。「レース」モードは明らかに他のモードとは違い各レスポンスが上がって楽しい。
パワーユニットにもまして印象深かったのがシャシーと足回り。
メガーヌR.S.にはストリートでの快適性を重視した”シャシースポール”とサーキット走行も可能な”シャシーカップ”が存在するが、ウルティムは後者の”シャシーカップ”。ストリートでの乗り心地はやや厳しいのでは?と思っていたが、ラリーシーンからフィードバックした4HCC(4輪ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)と呼ばれる技術を採用したサスペンションも手伝って、高速走行から街中での走行でも硬質ながらしなやかな乗り心地でスポーツマインドを感じながらも快適なドライブができた。さらに4コントロールと呼ばれる4輪操舵も加わり高速走行時のレーンチェンジもスムーズだった。今回の試乗ではワインディングなどでのスポーツ走行は残念ながら体感できなかったが、以前メガーヌGTを箱根で試乗した際には4コントロールの効果を十分に体感できたので、もともと抜群のスポーツ性能を備えたこのウルティムならさらにコーナリングを楽しめるんだろうと想像できる。
パワートレイン、シャシー、サスペンション…どれをとっても高いレベルにあると感じさせる完成度であるが、それらをまとめて一台の市販スポーツカーとして最高のバランスを達成しているところがR.S.たる最大の魅力ということに改めて気付かされた。
毎回この試乗会に参加して「もっとこのクルマに乗っていたい…」と感じるクルマが何台かあるが、このメガーヌR.S. ウルティムもその一台だった。それ故にこれが最後のR.S.モデルというのが残念で仕方ない。後はアルピーヌに引き継がれるわけだが、アルピーヌは今後電気自動車がメインになっていくようなので、純エンジンのR.S.を楽しみたいルノーファンならばやっぱり最後に味わっておかなければいけない一台だと思った。
SPEC
ルノー メガーヌR.S. ウルティム
全長×全幅×全:4,410×1,875×1,465mm
ホイールベース:2,670mm
車両重量:1,470kg[1,450kg]
エンジン型式:M5P
最高出力:300ps(221kW)/6,000rpm
最大トルク:42.8kg・m(420N・m)/3,200rpm[40.8kg・m(400N・m)/3,200rpm]
種類:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1,798cc
燃料供給装置:電子制御式マルチポイントインジェクション
燃料タンク容量:47リットル
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
駆動方式:前輪駆動(FF)
トランスミッション:電子制御6速AT(6EDC)、6速MT
WLTCモード燃費:11.3km/L(市街地モード 8.0km/L、郊外モード 12.0km/L、高速道路モード 13.0km/L)
[11.4km/L(市街地モード 8.1km/L、郊外モード 12.0km/L、高速道路モード 13.1km/L)]