ZENOS CARS(ゼノス カーズ)……コアな車好きの諸兄なら、あるいは耳にしたことがあるかもしれない。
ZENOS CARSはケーターハム・グループの元CEOアンサー・アリ氏とマーク・エドワーズ氏によって2013年に創設された英国の新興スポーツカーメーカー。
今回、そのZENOSが送り出した新型のライトウェイトスポーツカー”ZENOS E10”に試乗することができた。
試乗の舞台は車好きの聖地”箱根”。この手のスポーツカーを試乗するには絶好のロケーション。加えてこの時期不安定な天候も、この日はうす曇りで気温も涼しいベストコンディションだった。
今回の試乗車はレッドとブラックのボディパネルを纏った現在国内で唯一ナンバーの付いているE10。
一目で特別なスポーツカーだと分かる佇まいだ。
ZENOS E10は英国の伝統的なライトウェイトスポーツカーだがその成り立ちは先鋭的。
シャシーを構成するアルミ押し出し材のフレームやリサイクルカーボンという素材を用いたコクピットキャビンもその特徴の一つ。
リサイクルカーボンとは、使用済みのカーボンファイバーを砕いてマット状に再成形したもの。ポリプロピレン製のコアをそのカーボンマットでサンドイッチ状に挟み込むことにより作るカーボンファイバーパネルは、通常のカーボンファイバーの70%の強度で、コストはなんと1/10。開発担当者がファストフード店のストローを並べて接着してみたのがアイディアの始まりだとか。軽さと強度を保ちながらも安価ということで今後も注目の素材となりそうだ。
早速試乗を始めたわけだが、この車、屋根はもとよりドアという構造を持たない。乗り込むにはボディパネルを跨ぎシートの上に足を付くこととなるので靴を脱いでお邪魔することとした。ボディラインが前に行くにしたがい低くなるようにデザインされているので比較的楽に収まることができた。
コクピットは極めてシンプル。ステアリング、シフトレバー、ペダル、2つの液晶パネル、以上。
エアコン、オーディオ等はもとより、本来はフロントウィンドウすらも付いていない。(試乗車にはオプション装着されていた)
ラゲッジもシートの間のわずかなスペースとサイドシル部の足元に蓋付のスペースが備わるだけとミニマム。
ドライビングポジションはシートを動かしただけで違和感なく収まった。さらに拘るのであれば、ペダルの位置もオフセットできる構造だという。
センターコンソールにあるスタートスイッチでエンジンが目覚め、軽めのクラッチを繋ぎ試乗へ出発する。気難しいところはなにもない。
E10のミッドにはフォード製2L直列4気筒NAエンジンが横置きにマウントされている。
200bhp/210Nmということで数値的には驚くほどではないが、低回転から扱いやすいトルク特性に加え、高回転では所謂”カムに乗る”的な気持ちよさもある。さらに700kg(乾燥重量)という軽量なボディーにより箱根のようなワインディングを気持ちよく走るには十分力強くフレキシブルだ。
一方、背後から響くエンジン音は武骨で荒々しい。アクセルを踏み込んだ瞬間のシュコーという派手な吸気音も手伝い結構な音量となる。エンジンと右足の対話を通じて、これは”スポーツ”カーだと改めて認識する。
シフトレバーはかなり高い位置にマウントされているので、センターコンソール上に肘を置いて操作することになる。この試乗車はオプションの6MTが搭載されていたが、そのフィールはストロークがやや長く感じるもののカチッカチッと節度感のあるもので好感が持てた。アルミのシフトノブも掴みやすい形状だったが真夏は熱くなりそうなのでドライビンググローブが必要かもしれない。
パワーアシストのないステアリングは路面の状況をつぶさに伝えてくる。ステアリングやサスペンション各部の精度、剛性が高いからか、ユルさや不快な微振動は皆無で、自分の腕とフロントタイヤが直結しているかの如くダイレクト感が味わえる。
サスペンションは前後ダブルウィッシュボーンとなる。フロントダンパーにおいてはレーシングカーさながらのインボードマウントとなっており、長いアームと共にZENOS E10の特徴となっている。
ハンドリングは軽快かつ正確で思った通りの方向にノーズが向いていく。リアの重さもあまり感じることはなくバランスよく素直な印象だった。全幅が1870mmと比較的広いことでよく粘り、サスペンションの動きもしっかりと路面に追従しコーナリングも危なげなく楽しむことができた。
乗り心地はやはり固いと感じるが、不快ということではなくカーボンセルの剛性感をヒシヒシと感じられる乗り心地だった。それと車体からは想像できないほど小回りが効いたところも付け加えておく。
試乗車のブレーキはフロントにオプションとなる4ポットキャリパー、リアは標準のフローティングキャリパーの組合せであったが、ノンサーボなので踏力と慣れを必要とする。今回試乗した公道レベルの速度ではパッドが適正温度まで上がらなかったからか効き具合は本領発揮とは言えなかった。標準仕様であればもっと公道向けのセッティングになっているのかもしれない。
全体の印象として一番近い車といえばやはりロータス エリーゼだろうか。特に今回の試乗車はオプションのフロントスクリーンが装備されていたのでエリーゼに近い日常性も感じられた。ドライブフィーリングもまた同じ線上にあるように感じるが、E10はピュアドライビングに不要な装備をそぎ落とし、よりプリミティブなスポーツカーを目指している。陳腐な表現で申し訳ないが、例えるならS1時代のエリーゼを現代のテクノロジーを用いて仕立て直したような感覚。
一般的な車としてみれば、まだ粗削りな部分が少なくない印象だが、こと走りの基本性能や楽しさという点においては、これが初めて生産される車とは思えない完成度の高さであった。
普通の車好きがいきなり手を出して満足できる車かと聞かれれば即答しかねるが、一度でもこの手のスポーツカーにはまった方なら、いずれ通るであろうステップアップのときの選択肢がひとつ増えたことに喜びを感じるのではないだろうか。
国内の販売店となるグループ・エム社でも、今後国内ユーザーが求めるカスタマイズやパーツの開発を行う体制が整っており、本国ZENOS社にも色々と提案していきたいとのこと。小さいメーカーゆえの小回りが利く利点を生かし、さらに発展・進化し続けていくだろう。また250bhpを発揮するターボモデル”E10 s"の導入や各地でのイベントへの参加も積極的に行っていきたいとのことなので、今後もZENOSに注目していきたい。
ゼノス E10
主要諸元
全長×全幅×全高:3,800×1,870×1,130mm
ホイールベース:2,300mm
車両重量:700kg(乾燥重量)
エンジン種類:直列4気筒
排気量:1,999cc
最高出力:200bhp/6,800rpm
最大トルク:210Nm/6,100rpm
トランスミッション:5速マニュアル(試乗車はオプションの6速マニュアル)
駆動方式:後輪駆動(MR)
燃料消費率(JC08モード走行):--- km/L
メーカー希望小売価格:648万円(消費税別)
(株)グループ・エム ゼノス事業部:
http://zenoscars.jp/index.html
試乗車に装着されていたタイヤはAVON ZZR フロント195 50 R16 リア225 45 R17。
エンジンフードは2か所のロックを解除して取り外す。
オプションでシートヒーターが付けられる。
簡易的な幌もオプションで用意されるとのこと。雨の多い日本では嬉しい装備となるはず。
前後のフレーム下部にはアンダーパネルは装着されていない。タイヤハウス内のインナーフェンダーもしかり。