日本でもオシャレなコンパクトカーとして、イタリア車としては異例ともいえる幅広い支持を得ている「フィアット 500」。見た目はその「フィアット 500」に似ているものの、何かただ者ではない印象を醸し出していたのが今回試乗した「アバルト 695ビポスト」である。
もともと、「フィアット 500」をベースにしたスポーツモデルとして「アバルト 500」や「アバルト 595」といったモデルが存在している。こんな小さなボディに1.4Lターボエンジンを搭載した過激なモデルだ。しかし、それにさらに胡椒、いや唐辛子をちりばめたとでも言おうか。そんなモデルがこの「695ビポスト」なのである。
メーカーの発表によれば、「サーキットでも公道でも究極の走りを実現するアバルト史上最速のモデル」であり、「1964年の初代ABARTH 695誕生から50周年を記念して登場した新モデル」ということだ。
今回はサーキットでの試乗ではなく、公道での試乗だったためこのクルマのパフォーマンスがいかなるものであるかということは試せなかった。しかし、実際にこのクルマで走ることが多いのはやはり公道であると思うので、公道で走ってみるとどうなのかというレポートをお届けしたい。
通常はリアにもあるシートが取り外されており、2シーターモデルである。そして、シートはなるほど確かにこのままサーキットへ持って行ってもいいと思えるほどのバケットシート。しかし、私は個人的に日常使いでここまで拘束力の高いシートはあまり気持ちのいいものではないと感じる。特に、シート座面の張り出しのせいで、乗り降りがしにくいところも私はあまり好まない。
直列4気筒1.4Lターボエンジンの最高出力は139kW(190PS) / 5,750rpm、最大トルクはSPORTスイッチを使用した時で250Nm(25.5kgm) / 3,000rpmを発生する。車両重量が1,060kgなのだから、1馬力あたり5.6kgほどしか背負っていない。まさに、本格的なスポーツモデルである。それに5速のマニュアルトランスミッションが組み合わされる。今回試乗したのはシンクロメッシュのついたモデルであり、MTに乗れる方なら誰にでも乗れるモデルであった。もうひとつ、シンクロメッシュのないものも用意されている。
それでは、早速走り始めよう。通常時には2000回転で最大トルクが発生されていることから、クラッチミートは容易である。そして、アクセルを踏み込めばそのスペックからわかる通り、加速感は相当なものである。公道では、もっと速度を出したい気持ちを抑えながら走ることになる。
5速MTのシフトフィーリングは正直なところあまり気持ちのいいものではない。グニャグニャした、いかにも前輪駆動のMTというシフトフィールだ。前に乗ったVW ポロGTIの6MTやDS 3の6MTのようなドライな印象に欠ける。そして、さらにやはりこのクルマにも6速が欲しいところだ。日本では軽自動車のスポーツカーでさえ、6MTが採用される時代である。
そして、何よりゴツゴツした乗り味がどうにも私個人はなじむことができなかった。もともとベースの「アバルト 500」も決して、乗り心地はいいものではなく、ゴツゴツしている。ショートホイールベースで、スポーツモデルなのだから仕方ないとも思いつつも、これで長距離はあまり走りたくない。しかし一方でサーキットでの安定性は相当なものであろうということも認識した。公道でなら、ワインディングロードをハイペースで走る分にはこの足回りが相当効くのであろういうのも予想できる。
これは完全に好みの分かれるクルマであることには間違いない。多少なりとも「快適性」を求める人はこのクルマはダメだろう。しかし、「快適性」そっちのけで「楽しさ」を求める人にとっては、なかなかの遊具になることは間違いなさそうだ。しかし、遊具の割にはなかなかの価格であることも、お忘れのないように。
アバルト 695 ビポスト
主要諸元
全長×全幅×全高:3,675×1,640×1,480mm
ホイールベース:2,300mm
車両重量:1,060kg
エンジン種類:直列4気筒 DOHC 16バルブ インタークーラー付ターボ
排気量:1,368cc
最高出力:139kW(190PS) / 5,750rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm) / 3,000rpm(SPORT時)
トランスミッション:5速マニュアルトランスミッション(前進フルシンクロ)
駆動方式:前輪駆動
燃料消費率(JC08モード走行):13.5km/L
メーカー希望小売価格:599.4万円(消費税込)
※試乗車は606.636万円(ETC・ナビゲーションシステム装着車)
アバルト695ビポスト公式サイト:http://www.abarth.jp/695biposto/