日本で有名なフィアットといえば一昔前までは「パンダ」だったが、今となっては「500(チンクエチェント)」になったかもしれない。軽自動車よりもひと回り大きくした、輸入車の中ではかなりコンパクトなモデルである。イタリア本国では同じ500ファミリーで「500L」というモデルもあるが、日本には正規輸入されていない。しかし、500Xは日本にも正規輸入されることとなり、すでに日本でも販売されている。「500X」の見た目は確かに「500」っぽいが、ボディサイズは3まわりは大きくしたような印象の「SUV」である。 まず室内へ乗り込むと、あまりの内装の質感の高さにビックリである。「フィアット 500」は質感の高さはそれほど特筆すべきものではないが、オシャレさでそれをカバーしている。しかし、「500X」は質感が高いうえに、オシャレなのだからなかなかスゴイ。それも500にイメージの似たものであるのも、なかなかユニークである。さらに茶色のシートがオシャレ。このあたりはやはりイタリア車らしい印象を与えるのに成功しているといえるだろう。 試乗した「クロスプラス」は1.4L直4ターボエンジンに9速ATが組み合わされた4輪駆動モデルである。クロスプラスは170馬力を発生し、近年トレンドとなっている、「アイドリングストップ」機構も備える。アイドリングストップからの再始動は滑らかで、いい出来といえる。9速ATの9速ギアに入るのは高速でしか入らないようで、街中では6速ギアまでしか入っていなかった。 ドライブモードスイッチが用意されており、ごく普通のノーマルモード(Autoモード)で走るとややパワー感には物足りなさを感じる。街中で扱う分には問題ないと思うが、いざという時の加速感には物足りなさを感じそうである。重量は1.5t弱あり、決して重くないということもその原因だろう。 しかし、スポーツモードにすればイタリア車らしい爽快なエンジン音が聞こえ、ワクワクさせてくれるのはさすがイタリア!といった印象を受けた。こういった演出はとにかくイタリアの自動車メーカーはうまい。 この「500X」、イタリア車らしい運転の楽しさは兼ね備えた、珍しいSUVでありながら、気になったポイントも少なくない。 まずは今回ではないが、以前同じモデルに試乗した時はATのフィーリングがあまり良くなかった。今時のクルマにしては珍しく、明らかにシフトショックを感じた。今回の試乗車では前回のようなことはなかったため、個体差があるのかもしれない。また、マニュアルモードで任意に変速するときには反応が遅いのも気になるポイントである。 もうひとつは、乗り味に関してである。全体的にヒョコヒョコした動きをして、特にピッチング方向での乗り味の硬さが気になる。こういうところは同種の他メーカーのものをもう少し研究してもらいたいという印象だ。 安全装備としては、フロントガラス上部にあるカメラが白線を認識して、白線を逸脱しそうになると車両を車線中央に戻す「レーンキープアシスト」がついており、これは明らかに効果を感じた。しかし、そこまでしたのにも関わらず、追従モード付きのクルーズコントロールが装備されていない点がよくわからない。この2つがあってこそ、相乗効果を発揮してくれるのだ。 今後、乗り味とATのフィーリングで熟成が進むと期待できるSUVに化けると思われる1台だった。
フィアット 500X クロスプラス 主要諸元 全長×全幅×全高:4,270×1,795×1,625mm ホイールベース:2,570mm 車両重量:1,460kg エンジン種類:直列4気筒マルチエア 16バルブ インタークーラー付ターボ 排気量:1,368cc 最高出力:125kW(170PS) / 5,500rpm 最大トルク:250Nm(25.5kgm) / 2,500rpm トランスミッション:9速オートマチック 駆動方式:4輪駆動 燃料消費率(JC08モード走行):13.1km/L メーカー希望小売価格:334.8万円(消費税込) ※試乗車は345.1032万円(ETC・ナビゲーションシステム・フロアマット装着車) 公式サイト:http://www.fiat-auto.co.jp/500x/