関山は金融機関に勤める36歳である。都内屈指の高級住宅街に居を構え、週末には愛車のアルファ・ロメオ4Cスパイダーを駆って箱根や葉山に向かう。こう書くと彼の生活は典型的なアッパークラスのそれだが、彼の部屋は豪奢な富裕層の暮らしとは対極にある。
2LDKを1LDKへと改装したリビングルームには生活を感じさせるものが何もない。
いや、正確に言えば、Bowers & Wilkinsのオーディオセットや、デザイナーズチェア、それにベッドがある。
1つあるベッドルームはもはや物置と化した。「ミニマリスト」という言葉を友人の口から聞いたとき、自分がそういったグループにカテゴライズされる人間であることを自覚した。ただ、あくまで、彼は自身の価値観を大切にしてきただけだ。