今週のブログ担当も、引き続き
G.Sekidoです。
先日、CG CLUBさんのイベント【 堺市ヒストリックカー・コレクション見学会 with 永島譲ニさん 】に参加させて頂きました。
そして
【前編】(先週のブログ)では、その「
堺市ヒストリックカー・コレクション」を中心にレポート致しました。
今回の【後編】は、永島 譲二氏(元BMWデザイナー)のトークを中心にお届けします。
永島氏に関しては、当ブログの過去記事【
3シリーズのデザインに込められた日本人の心 】にてご紹介したことがあります。
自動車デザインでは異例とも言える水彩画を用いる独自のスタイルを確立され、オペル(1980年~)、ルノー(1986年~)、BMW(1988年~)で腕を振るわれました。
4代目5シリーズ(E39型)・Z3ロードスター(E36/7型)・先々代3シリーズ(E90型)・先代3シリーズGT(F34型)・現行3シリーズ(G20型)などを手掛けられ、繊細かつ流麗な作品を生み出されました。
(BMWを退社されてからも、お膝元のドイツ・ミュンヘンにお住まいのようです。)
永島氏のスマートでジェントルな物腰は、流麗な作品から受けるイメージと通じるものがあるように思います。
デザインに関する卓越した知識や情熱は、月刊誌『CAR GRAPHIC』にて2007年1月号から続く長期連載「
駄車・名車・古車 デザイナー的見解」からも伺えますが、今回のイベントでのお話にも滲みでていました。
その貴重なトークの一部を、生産年代順にダイジェストでご紹介します。
3/15 DA-2(1928年式)はBMW初の4輪車(英オースチン・セブンのライセンス生産車)であるDIXIの初期型で、それをベースにしてコーチビルダー・イーレ社が2シーターロードスターに仕立てたのがイーレスポーツ(1928年式)です。
実は、BMWの象徴とも言えるキドニーグリルは、このイーレ社によって生み出されました。
Cピラーのホフマイスター・キンク(社内呼称はホフマイスター・エッケ)も、グリル同様にBMWの象徴として語られますが、初めからアイデンティティとして選ばれたわけではなく、紆余曲折がありながら結果的にそうなっていきました。
507(1958年式・生産台数252台)は、「ベンツの300SLに対抗して作られた」と語られることが多いですが、実際には知名度としては遠く及びませんでした。
私の知人で300SLを新車発売当時に買った人がいるのですが、507はその存在も知らなかったそうです。
ですが当時エルヴィス・プレスリーが徴兵されて西ドイツにあるアメリカ陸軍基地に勤務していて、この507を1958年に中古で購入したことから一気に知名度が上がったのです。
(余談ですが、プレスリー氏はその507にエンジン載せ替えやボディ色を赤に変える等のモディファイを施した後、アメリカに持ち帰りました。長年を経て2014年に納屋に置き去りにされている状態で発見され、BMW自身の手によって
美しくレストアされました。)
アルブレヒト・フォン・ゲルツによるイタリア調のデザインは、後のヘンリク・フィスカーによるZ8に、側面のルーバーは(永島氏の作品である)Z3に受け継がれています。
ノイエ・クラッセシリーズは、当時BMWと契約関係にあったジョヴァンニ・ミケロッティのデザインだと語られることもありますが、実際はBMW社内デザインチームとのミックスだったようです。
ボディ全体をクロームメッキのモールが一周しているのが特徴で、当時の話題作であるシボレー・コルベアの影響を受けていると思います。
バンパーを除くとボートのようなフォルムをしていて、先日発表された最新コンセプトカーにも引き継がれていますね。
この1600-2 Cab(1971年式)は、2ドアをベースにバウア社がカブリオレに架装したもので、とても珍しい車両だと思います。
ちなみにバウア社は後に3シリーズ(初代・2代目)カブリオレも製作しますが、それは横転対策の法規が厳しくなるかもしれないという懸念からBピラーがロールバー状に残されることになりました。そんな時代になる前の作品です。
2002 Turbo(1973年式・生産台数1672台)は、初期のモデルにはフロントスポイラーに"2002 Turbo"とミラー越しに読めるように裏返しに書かれていて、前の車に「どけッ」と伝えていました。
ですが「挑発的過ぎる」として行政指導が入ったという噂で、その後はストライプのみになりました。
エンジンルームを見ると、非常に贅沢な造りをしています。
運転したこともありますが、世界初の量産ターボは、ターボラグが大きくて忘れたころに効きだす感じでした。
2002シリーズには高性能版のTiとそのインジェクション版のTiiがありますが、Tiが一番力強かった印象があります。
なお、BMWの歴代の首脳陣はボブ・ラッツを始め、しっかりと飛ばす人が多いですね。
(写真の向かって左はバルコムトレーディングによる正規輸入車で、フェンダーミラーを備えオーバーフェンダーが溶接されています。右側は並行輸入車で、ドアミラーかつオーバーフェンダーがボルト留めになっています。)
尚、堺市ヒストリックカー・コレクションの中で、永島氏が最もお好きなモデルは「黒い328」(328ウェンドラー・1938年式)とのことでした。
名車328ロードスターをベースに、ドイツのカロッツェリアである
Wendler社が作製した、世界に数台(1台?)しかない特別な車です。(コレクションの他の車と共に、
BMW GROUP Tokyo Bayのオープニングセレモニーにも貸し出されたことがあります。)
当時建設が進んでいたアウトバーンでの高速連続走行を想定して、広めのキャビンと脱着式ルーフを備えています。
(余談ですが、Wendler社はさらに空力性能を重視した過激なディテールとフォルムの
328 WENDLER "STREAMLINE" COUPEも生み出します)
当日撮影した写真(約130枚)は、
Webアルバムでもご覧いただけます。
・・・といった感じでコレクションの観覧を終え、
エンジン始動見学、昼食(堺市名物
古墳弁当 &
けし餅)と続きました。
その後の懇親会では、永島氏にサインを頂きながらお話しし、トークの時間では以下の質問をさせて頂きました。
Q : 歴代のBMWで最も好きなデザインのモデルは何でしょうか?
A : 3.0のクーペ(E9シリーズ)はBMWらしさに溢れていて良いと思います。ブランドの象徴として好きです。
Q : それ以外のメーカーで最も好きな車は何でしょうか?
A : シトロエンのオリジナルのDSは非常に尊敬します。本当に尊敬します。
Q : 最近は、メーカーを問わず圧迫感が強い、ゴツいデザインが増えたように思いますが、どのようにお感じでしょうか?
A : 自動車のデザインは、ある時点から、キレイなデザインでは無くて、目立てば何でも良いになってしまいました。
日本に来ると強面のミニバンを見かけますが、ああいったものは日本でしか見かけません。
ああいうデザインは自分にはちょっと難しいと同時に、高級感というものが古く解釈されている気がします。
もうちょっと工夫して欲しい、やりようがあるのになとも思いますが、そういう話を始めると大変なので...これくらいにします(笑)
・・・といった感じのトークを最後に、貴重なイベントはお開きになりました。
日本で随一のBMWのヒストリックカーコレクションを拝見し、長年のファンでもある永島 譲二氏のお話を聞けるという、私にとっては夢のような体験でした。
来年には、
永島さんの作品の展示会(名古屋)も予定されているとのことで、それも楽しみです!
永島氏には、個人的にこんな質問もさせていただきました。
当ブログの過去記事でもご紹介しましたが、2010年代に、3シリーズ(2012年)→4(2013年)→2(2014年)→1(2015年)→7(2015年)→5シリーズ(2017年)という順番で発表されたモデルラインナップにおいて、フロントフェイスに連続性(上級モデルほどヘッドライトとグリルが横に伸び、太く繋がっていく)が見られたことがありました。
「5年をかけて完成したこれらの綿密な連続性は、チーフデザイナー(
アドリアン・ファン・ホーイドンク氏)の明確な意向によるものでしょうか?」という疑問です。
それに対するお答えは、
「BMWにおけるチーフデザイナーの主な仕事は、個別の車のデザインに対して細かく指示するというよりも、予算獲得等のビジネス的な役割が多く、さらにホーイドンク氏はその傾向が強いです。これらの連続性は、各シリーズのデザイナーが各自に判断して、お互いを見ながら形成されたと推測します。」とのことでした。
BMWのデザインの方向性は、BMWという会社全体が定めていくということでしょうか...!?
尚、永島氏は前チーフデザイナーの
クリス・バングル氏とは今も個人的な交流があり、先日も某国の自宅にて会われたとも話されていました。
最後に・・・
素晴らしいイベントを企画して頂いたCG CLUBさん、誠にありがとうございました!
会員になると隔月で会報誌が届き、こういった貴重なイベントに参加できたり、
各種特典がございます。
自動車文化の奥深さに触れられる、素晴らしいコミュニティです。お勧め致します!
※12月3日 13:30追記:当日の写真を約130枚を、Webアルバムに掲載しました!
ぜひご覧ください!