昨年11月のブログでもお伝えしましたが、
EUは「2035年までにガソリン車など内燃機関車の新車販売を事実上禁止する法案」を可決する流れにありました。
ですが、採決予定日(3月7日)の直前になり、ドイツ・イタリア・ポーランド・ブルガリアが、
同法案への反対または棄権を表明しました。
そして「再生可能エネルギーを用いて生成する合成燃料である
e-fuel(イ― フューエル)を使うエンジン車の利用が認められない限り、同法案に賛同できない」と主張しました。
立法の最終承認を得るには
EU理事会における「EU人口の65%以上を代表する加盟15か国以上の同意が必要」ですが、その4か国(計42%)が不支持に回ればこの要件を満たせなくなることから、
採決は無期限延期されました!
3月13日には、同法案に反対の立場を取るドイツ・イタリア・ポーランド・ルーマニア・ハンガリー・チェコ・スロバキアの運輸相がチェコのプラハに集まり、禁止法案の変更を提案すべく会議を開きました。
そして同法案に関しては「
会議に参加した国々で同盟を組み、内燃機関の完全禁止ではない独自の提案を出していきたい」と発表しました。
また同日に、オーストリアのネハンマー首相が「ドイツに協力し、内燃機関の廃止阻止のために最善を尽くす」と明らかにしました。
ちなみに、ここで名前の出た
反対派9か国の人口の合計は約2.4億人で、EU全体4.4億人の54%にもなります!
その後、EUでの法案提出権を担っている
欧州委員会が「カーボンニュートラル(CN)燃料である水素とCO2による
合成燃料(e-fuel)を利用する場合に限り、2035年以降も内燃機関を搭載した新車の販売を認める方向で草案をまとめた」と報じられました。
EUは、エンジン車の禁止から存続に向けて、大きく舵を切りつつあるようです。
そのニュースには「草案によると、欧州委はCN燃料でのみ走行可能な車を対象とするカテゴリーの新設を計画している。このカテゴリーの車は、他の燃料を使った場合には走行できない技術を導入することが義務付けられる。」とも記されています。
現在試験的に生産されているe-fuelは、(通常のガソリンを一部混合して使用するため)
85~90%のCO2低減になると記されている記事もありますが、
「完全にカーボンニュートラル」(100%のCO2排出低減効果)である必要があるのか等が、今後の焦点になってくるように思えます。
それに伴い、
バイオ燃料(主にトウモロコシが原料)や、次世代バイオ燃料(食料と競合しないバイオマスが原料)ではどうなのか等も、議論の対象になるかもしれません。
草案の「他の燃料を使った場合には走行できない技術」という内容も、実際は技術的・制度的なハードルが高いように思えます。
ちなみに、米国の著名な環境NPOである
ICCT(国際クリーン交通委員会)の予想に基づくと、
e-fuelは2030年にガソリンの1.5倍ほどの単価になる(ドイツの場合・諸税金を含む)と試算されるようです。
税制度等が異なるのでその価格や倍率がそのまま日本には当てはまらないでしょうが、昨今の電気料金が2~3倍になったことに比べると、個人的にはまだ許容範囲のように思えます。
なお来年には5年に一度の
欧州議会議員選挙(定数705人)が行われますが、
前回から政治の勢力図が大きく変わる可能性もあります。(
きっと電力不足・電気代高騰や中国の台頭に対する民意が、より色濃く反映されるようになるでしょう。)
新しい法案の成立までには紆余曲折あるかもしれません。
そしてEUから離脱したイギリスでも、同様の動きがありました。
3月頭に、英国議会下院の交通委員会が「未来への燃料補給」(Fuelling the future)というテーマの
第3次レポートを発表しました。
自家用車・商用車・船舶・航空機に関する動力源や燃料に関する報告書であり、「2035年エンジン車販売禁止」という方針を3年前に発表した英国政府への勧告でもあるとされています。
かなり長文のレポートですが、最後の「結論と推奨事項」(Conclusions and recommendations)から象徴的な部分を抜粋すると・・・
1. 乗用車の完全EV化は「通説」(the received wisdom)であり、さらなる精査と調査が必要であります。
2. しばらくの間路上を走る既存の乗用車を考えると、再生可能エネルギーによって生成した合成燃料やバイオ燃料は、リスクがなく、非常に賢明で経済的に健全なアプローチになる可能性があります。
3. バッテリー EVのみを推奨する英国政府は、実際には「全ての卵を 1 つのカゴに盛っている」ようなものです。
(※カゴを落とすと全てが割れてしまうので、リスクマネジメントができていないという意味)
現実には、英国の全ての人が新車または中古のEVを購入できるわけではなく、できたとしても自宅で簡単に充電することはできません。インフラは十分な電力を家庭に供給するのに十分ではなく、すべての車両が EV になるために必要なバッテリーを生産するための原材料が不足しています。したがって、私たちは、乗用車からのCO2排出を削減するための唯一の解決策として電気自動車を推進することに注意を払います。
といった内容を含んでおり、他にもPHEVの重要性や、物流に関する現実的な選択の必要性なども記されています。
2021 年には、英国だけで 25 億リットル相当以上の再生可能燃料(renewable fuel:合成燃料やバイオ燃料を指す)が供給されました。これは、その年の全道路および非道路移動機械燃料の 5% を占めています。(※本文の16項)
という記述もあり、"再生可能燃料"が既に実績を上げつつあることも報告されています。
そして、この報告書 兼 勧告書の但し書きには、「英国政府の対応期限は2か月です」(The Government has two months to respond.)とも書かれています。
EUに続いてイギリスでも、「国民の生活の足を確保しながらCO2を削減するには、EVの普及は必須であるものの、カーボンニュートラル燃料を用いたエンジン車の活用も必要である」という方針に、潮目が変わってきたように思えます。
BMWはかねてより「電気自動車の拡大は顧客の要望に足並みを揃えるべきで、内燃機関の早々の廃止は現実的ではない」と主張を重ねてきました。
当たり前と言えば当たり前の主張なのですが、ようやく欧州での政治がそれに近づいてきたように思います。
もちろんBMWは必要以上に内燃機関に固執している訳ではなく、お客様の要望に応えるべく様々な技術を研究・開発しています。
一昨年にBMWは「
2030年には、全世界の新車販売台数の少なくとも50%をピュアEVにすることを目指します。」と
発表していました。
そして今年3月15日にはオリバー・ツィプセCEOが、それを
かなり前倒しで達成できるとの見通しを示しました。
(2025年までに四分の一が、2026年までに三分の一がピュアEVになるとの予想も述べたと、
元記事では書かれています)
さらに、
2020年代前半に水素自動車の生産を想定しているとも述べました。
先月には、水素燃料電池車である
iX5 Hydrogen の
開発車両の国際試乗会をベルギーのアントワープで大々的に行いました。
同車は、今年中の100台規模の公道でのテスト運用が予定されています。
またその試乗会のレポートは、
日本の多数のメディアで報じられました。
BMWは、エンジンも、電気も、水素も本気です。
そして、環境に配慮しながら「駆け抜ける歓び」を味わう手段を選ぶのは、政治ではなくお客様であるべきだと考えています。
BMWの今後の展開にご期待ください!
※※※※※ 3月25日 22時 追記 ※※※※
欧州委員会とドイツ政府は3月25日、
2035年以降も条件付きでエンジン車の新車販売を認める(CO2の排出量が実質ゼロになる合成燃料を使用する場合に限って容認する)ことで合意したと発表しました!
ウィッシング独交通相は「2024年秋までに手続きを完了したい考え」とのことですが、まだまだ不確定要素が多いとも推測します。
(
来年のEU選挙の前に新しい規則が提案される可能性は低いと、米ブルームバーグ社は予想しているようです)
ですが、とりあえずエンジンの火が消されることが無くなったのは素晴らしいと思います!
G.Sekido